真実への盗聴

盗聴と言っても実際に盗聴器を使った事件を扱った作品では無く、主人公が遺伝子治療によって常人を遙かに上回るほどの聴覚を持つ事で、秘密を聞き・知ることで「盗聴」として成り立つというものである。

本書は結婚してからとる企業を退職し、新しい起業に転職をする際、ある企業の事業部長から「スパイ」として斡旋されることとなった。スパイとして斡旋された企業は受けようとした企業の子会社。しかしその派遣先で知られるのは、主人公の聴覚が異常に発達した理由、そして新薬開発の真相と、阻止を行わんとする組織など、見ているだけでも背筋が凍ってしまうような感覚に陥ってしまう。さらに、潜入が深まれば深まっていくほど見えてくる「真実」を目の当たりにしただけでは無く、主人公を取り巻く人間模様がきな臭く、まるで「企業の闇」「企業の裏側」を見ている様な気がしてならなかった。

本書を読んでいくと正直近未来の社会像が映っているようでいてならない。ライバル会社の駆け引きも激しくなり、業種に限らずセキュリティも際限なく意識が高まっていく中で、ライバルの情報をいかにして得ていくか、いわゆる「諜報」などのインテリジェンスが重要視されるような状況に陥っていく。そう考えていくと本書はフィクションであるのだが、もしかしたら未来、本書の様な事が起こらないとは限らないと言える、そんな一冊だった。