他力本願―仕事で負けない7つの力

「スカイ・クロラ」や「イノセンス」など数多くの名作を生み出す押井守氏。押井氏は日本アニメ界にとって最も注目する監督の一人として挙げられるのだが、事実押井氏がいかにして作品を作り上げていくのか、本書では「●●力」という形で取り分けながら、なおかつ映画が出来るまでのプロセスについてを綴っている。

第1章「対話力」
まずは映画を作る根幹になる「企画」である。企画は一人でつくるもののように見えるのだが、実際の所複数人がブレインストーミング(ブレスト)などアイデアを出し合って考える事でより良い企画を生み出すことが出来るとされているが、押井氏はそのアイデア出しを対話に絡めながら、半ば「缶詰」と呼ばれる様な形で何日間もアイデアや企画を出し合う「対話」を続ける事によってより良いものを生み出すのだという。

第2章「妄想力」
アニメ製作となるとデスク上だけで行われると思ったら大間違いで、ロケハン(ロケーションハンティング)を行う必要がある作品もある。最も著者もロケハンの重要性を熟知しつつ、積極的に屋外に出て、物語の舞台をどこにするか、そしてリアルに見まがうような風景をどのように映すのかが重要視されてきたためとしている。もっとも最近では特定の場所が舞台になったアニメ作品も出てきていることからロケハンの重要性が高まってきたとも言える。

第3章「構築力」
舞台設定が終わったら、今度はキャラクターや建物などの細かい所の設定に移る。リアリティを生み出しつつ、キャラクターそれぞれの性格や表現に至るまでを構築していくのか、細部を描くことによって物語の深さが見えてくる事を提示している。

第4章「意識力」
アニメーションは監督をはじめとした制作者の構想から生み出した産物であり「偶然」できた産物ではない。冒頭からどのように視聴者に引き込ませるように演出していくのか、その「意識」をどのように向かせるかを伝授したのが本章である。

第5章「提示力」
もちろんアニメーションはキャラクターや舞台だけでは作れない。音楽・音響・声もまたアニメーションには必要なものである。中でも音響はどのようにこだわり抜くか、毎日提示しながら生み出していくことにかかっている。

第6章「同胞力」
押井氏には「同胞」と呼ばれる人が何人かいるのだが、音楽では川上憲次氏ほどの同胞はいないと言えるという。作品を作り出し、そこから音楽をかぶせていくのだが、監督の意図ぴったりに生み出すと言うことで同胞になったとも言える。

第7章「選択力」
最後は「声」である。各キャラクターの声もオーディションで厳正に審査する必要があったのだが、ヒロインだけは審査をしても見つからなかった。しかしとある運命的な出会いによって理想の「声」を見つける事ができたと言う。

アニメーションや映画はまさに「チーム戦」である。監督一人から他力に頼りつつ、理想の作品を作り上げていく。「良い作品をつくりたい」という志の妥協は許さず、それでいながらどこまでこだわり抜けるのか他力を信用しつつも質の良い作品へ互いに力を出し合って完成する結晶が今日の代表する監督・押井守を作り上げていったと言っても過言ではない。