寄生虫病の話―身近な虫たちの脅威

「寄生獣」と言うマンガをご存じだろうか。元々漫画作品としては1988年~1995年の7年間連載されたわけだが、人気は未だに衰えず、今年にはアニメ・実写映画化された。既にマンガは終了しているものの、これからもブームを巻き起こすと言われている。

本書はその「寄生獣」と「寄生虫」との関連性はないのだが、「寄生獣」を見て自ずと「寄生」とは何かと言うことを知りたく手に取った次第である。本書はなぜ「寄生虫」による病が蔓延するのか、そしてどのようにして制圧をしたのかそのことについて取り上げている。

第一章「なぜ、いま寄生虫病か?―身近に潜む寄生虫軍団」
「寄生虫病」と言う言葉にピンとこない方がいると思うが、寄生虫病とは、簡単に言うと「寄生虫」によってもたらされる病気の事を指している。寄生虫病として代表的な病気としては「エキノコックス症」や「マラリア」「アメーバ赤痢」が挙げられる。元々日本でも「エキノコックス症」人への感染は確認されていない物の、家畜への感染で話題となり、「マラリア」は大東亜戦争末期に起こった「沖縄戦」にて疎開先の西表島や渡嘉敷島、八重山諸島などで集団感染した「戦争マラリア」が挙げられる。

第二章「寄生虫病は世界に広がる―「この蟲だらけの世界」のいま」
寄生虫病は日本に限らず世界にも広がっている。取り分け有名な物は蚊を媒介としたマラリアが挙げられるが、本章では住血吸虫症(じゅうけつきゅうちゅうしょう:住血吸虫科に属する寄生虫に感染することにより引き起こされる病気)を中心に挙げている。住血吸虫症と言っても日本住血吸虫症やマンソン住血吸虫症、メコン住血吸虫など種類は様々である。

第三章「寄生虫の生き残り戦略―寄生虫はなぜ宿主から排除されないか」
病気の元となる寄生虫は様々な動物に寄生し、動物、ないしは人体に悪影響を与えるのだが、それなのに寄生虫はなぜ排除されないのか。それには寄生虫による生き残りの「戦略」の存在である。元々寄生虫は他の虫を宿主にしているのだが、実際には全てが全て同じ虫を宿主にしているわけではない。もちろん寄生虫も生き残りをかけて、どの虫が生き残りやすいのか選びつつ、寄生を重ねて生き残っているのである。その一方で寄生される側も、抗体など抑える、もしくは寄生させないような対策も行われているのだが、いたちごっこが続いていると行っても過言ではない。

第四章「日本はこうして寄生虫病を制圧した」
しかしそのいたちごっこを打破したのが日本である。かつては「寄生虫大国日本」とまで言われるほど寄生虫や寄生虫病が蔓延していたのだというが、日本ではそれを制圧した歴史があったという。それは明治時代に入り、寄生虫の研究者が出てき始めてからのことだった。

第五章「世界に貢献する日本の寄生虫病制圧戦略」
日本では寄生虫病はほとんど制圧状態にあるのだが、海外に向けてみると現在でもマラリアをはじめとした寄生虫病が蔓延している状況にある。日本で寄生虫病を制圧した経験からどのようにして、寄生虫病の蔓延を縮小し、抑えることができるか、アメリカや日本がイニシアティブを取りつつ、行われている現状について取り上げている。

寄生虫病は日本ではほとんどないとは言え、どうなるのか分からない。それは寄生虫病に限らず、様々な病気が突然変異していることにある。寄生虫病は今もなくなっていない現状を考えると、寄生虫対人間の戦いは、どちらかが完全に滅びるまでなくならないとも言える。本書はその一端を見ているようでいてならない。