「メジャー」を生みだす マーケティングを超えるクリエイターたち

角川書店 岸山様より献本御礼。
マンガやアニメ、さらには歌などのカルチャーを「サブカルチャー」と呼ばれるのだが、数年前から論者によって、「ポップカルチャー」と呼ばれる事がある。そういったカルチャーが「オタク」と呼ばれる方々のために作られることが多かったのだが、現在ではオタクを対象とせず、いわゆる普通の人を対象にした、「メジャー」と呼ばれる様なものも数多く作られている。

本書は今を担う音楽・マンガ・小説・アニメの担い手たちのインタビューを元に「メジャー」を生み出す仕組みについて解き明かしている。

第一章「言葉があふれ、言葉に意味がなくなっているー「OverTheDogs」恒吉豊に聞く」
「OverTheDogs」というバンドは2002年に結成されたロックバンドでファンの間では「オバ犬(おばけん)」と言われている。結成してからはライブハウスなどで活躍し、2004年にはミニアルバムを出すまでに至ったのだが、同年、ヴォーカルだった荻野彰が事故で亡くなる悲劇が起こった。
それを乗り越えインディーズで長年活躍し2012年にメジャーデビューを果たした。

第二章「人間の「孤独感」は変化しているー「AJISAI」松本俊に聞く」
「AJISAI(あじさい)」は第一章で取り上げた「OverTheDogs」と同じく2002年に結成されたロックバンドであり、「熱唱オンエアバトル」にも参加したことがある。本章でも取り上げられている通り「孤独感」を醸すと同時に、ボーカルギターである松本俊氏の考える「日本語の美しさ」を替え備えた歌詞も有名である。
しかし「AJISAI」は2014年6月に活動休止となった。

第三章「生まれるなら、いつの時代がよかったかー「THE BOHEMIANS」平田ぱんだに聞く」
「THE BOHEMIANS(ザ・ボヘミアンズ)」は2004年に結成し、2011年にメジャーデビューを果たしたロックバンドである。古典の美学を追い詰めながらも、何か「中毒」と呼ばれる様なことについても取り上げられている。

第四章「「理想」の世の中ではモラルだけが昴ぶっているー漫画家・浅野いにおに聞く」
「素晴らしい世界」「ひかりのまち」「ソラニン」「おやすみプンプン」「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」などの漫画作品を世に送り出した浅野いにお氏はどのような「理想」を持っているのか、そしてその「理想」は漫画作品に対してどのような影響を与えているのか、過去作られた漫画の中で「ソラニン」を中心に取り上げられている。

第五章「半径三メートルの楽園の「外」を見せるー漫画家・宮城理子に聞く」
「ラブ♥モンスター」「ミカド☆ボーイ」「メイちゃんの執事」など少女漫画作品を数多く世に送り出した宮城理子氏は90年代にデビューし、約20年もの間活躍をしている。もちろん20年間のなかで考えが一貫しているものもあれば、変化したものもある。本章ではその中から「変化したもの」の他に、「ジャンル」の括りから本章のタイトルにあるとおり、「外」を見て世界を広げることの重要性について説いている。

第六章「本当のところ大人社会は、実は大人ではないー漫画家・咲阪伊緒に聞く」
本書で取り上げられる方々の中で最もホットなのは咲坂伊緒氏である。咲坂伊緒氏の作品で言うと、今年の7~9月にアニメ化され、今月には実写映画化された「アオハライド」が挙げられる。「アオハライド」以外にも咲坂伊緒氏の作品に「ストロボ・エッジ」などが挙げられる。咲坂伊緒氏の作品の傾向としては女子高生など思春期・青年期に関する作品が多く、大人と子供の対比を描かれているところがある。本章ではそのことについて取り上げられている。

第七章「反発から継承へテーマは変わったー「cinema staff」辻友貴」に聞く
「cinema staff(シネマスタッフ)」というバンドは、昨年大人気となった「進撃の巨人」の第2クールのエンディングテーマ(great escape)に採用された。その「cinema staff」が持っている音楽のテーマについて、元々は「反発」だったのだが、今は「継承」としてテーマを変わったのだという。その経緯について、ギター担当の辻友貴氏が明かしている。

第八章「デジタルとアナログが並列する時代を描くー「Applicat Spectra」ナカノシンイチに聞く」
「Applicat Spectra(アプリキャットスペクトラ)」は2010年に結成された4人組バンドで、それぞれ複数の楽器で演奏し、PC同期などの処理をせずに再現するというのが特徴のバンドである。そのため「デジタルとアナログが並列する」というタイトルに合う。

第九章「自己承認という「病」に向き合うー「Any」工藤成永に聞く」
3ピースロックバンドの「Any」は2006年に結成されたバンドで、これまで4枚のアルバムと2枚のシングルをリリースした。「Any」というバンドから描かれる歌詞は「自己承認」という欲求に対する「病」をどのようにして向き合うのか、孤独に対してどのように向き合っているのかそのことについて取り上げられている。

第一〇章「中二病を研究するー小説家・支倉凍砂に聞く」
「狼と香辛料」や「マグダラで眠れ」などのライトノベルを世に送り出した支倉凍砂(はせくらいすな)は、ライトノベルの作品の中では珍しく中世ヨーロッパをモチーフにしたファンタジー作品であることが多い。しかしそのファンタジーの中で研究されているのが、漫画・アニメ・ライトノベルなどの中で描かれる「中二病」を取り上げている。

第一一章「人間はかくも承認されたい生き物であるーアニメ監督、演出家・谷口悟朗に聞く」
最後は「無限のリヴァイアス」「スクライド」「プラテネス」「コードギアス 反逆のルルーシュ」などのアニメ作品の監督を務めた谷口悟朗氏は過去のアニメ作品をもとに、第九章とは異なる人間における「承認」欲求のありかたについて取り上げられている。

本書で取り上げられた方々は、それぞれの世界でまさに「メジャー」と呼ばれる作品を次々と生み出している。かつては「ニッチ」と呼ばれる様ないわば極端な分野・考え方を出すのでは無く、「王道」というようなものではないにしろ、それぞれの思想や考え方をストレートに表現し、作品を作り出していった。もちろんこれからはどうなるかわからないものの、今まさにコンテンツを生み出すには「メジャー」を知り、狙う必要がある、そのことを本書では訴えている。