音楽ライターが、書けなかった話

元々音楽をやっている人間にとって「音楽ライター」の仕事は夢がある。とは言ってもライター業自体、経済的な現実は厳しいと言われている。にもかかわらずこの仕事を続けられている要素として著者は、

「音楽が好きであること。さらに考えてみると、仕事のなかで心が震える瞬間があるからだ」(p.10より)

とある。経済的な厳しさをも吹き飛ばす様な「瞬間」に著者は何度も立ち会ってきた。その瞬間とエピソードを本書にしたためている。

1.「天才音楽家たちの素顔」
本書で取り上げられている音楽家に日本人はほとんどいない。その数少ない日本人として坂本龍一が取り上げられている。日本人以外にもロン・カーターやハービー・ハンコックなど、「天才」と賞される音楽家たちの取材エピソードが収録されている。もちろんWikipediaや音楽情報誌で取り上げられなかったほどの裏話が目白押しである。

2.「アーティストもまた、アーティストのファンなのです」
裏話はなにもアーティストばかりではない。アーティストと関わりのある大物女優など有名人、あるいはファンにまつわるエピソードについて取り上げている。本章を読んでいると色々なファンがあり、その支えもあってファンもアーティストによって育てられ、アーティストもファンによって支えられている事を知る事ができる。

3.「黒い白人、白い黒人」
人種と音楽の関わりは様々である。しかもそれが差別の元になる事も少なくない。とはいえ、最近では人種差別が露骨に起こっておらず、むしろ音楽を通じた関わり合いもある。ジャズやブルース、レゲエ、ゴスペルというと「黒人音楽」として挙げられるのだが、それらの音楽、及びシンガーたちとの関わり合いについて取り上げている。

4.「音楽が生まれる街」
「音楽の街」と呼ばれる所は世界中どこにでもある。例えば神奈川だと川崎が「音楽の街」と標榜し、駅前には色々なストリートミュージシャンが平日の夜や休日に演奏される。しかしそういった所は音楽が生まれると言うよりも音楽を奏でる街といえる。
では、音楽が生まれる街として本章で挙げられるのはどこか、それはアメリカ・ニューヨークを挙げている。

5.「音楽ライターという商売」
本章は音楽ライターになりたい方へ送る助言と言った所である。音楽ライターに限らず、作家やライターなどの物書きは誰でもなる事ができるが、実際に整形を立てられるほどになっている方は少ない。もちろん音楽ライターを育成する期間も存在するのだが、実際に学んだからと言ってすぐにライターになれるわけでもない。厳しい世界であるのだが、楽しい面もあるという。もちろん著者自身も様々な苦楽があった。

本書はまさに音楽関係者の「オフレコ」と言える様な話がぎっしりと詰まっている。数多くの音楽家、ファン、関係者の取材を行った事により、本当に知る事のできなかった「裏話」を知る事ができるので「面白い」と言える一冊である。