「忘れる」力

私は忘れっぽい人であるのだが、「忘れる」ということはあながち悪いことではないという。むしろ忘れることを意識することによって新しいものを創り出すことができ、考えることを旅のごとく楽しむことができる。

その「忘れる力」とは何か、その意味と仕組みについて本書を通じて読み解く。

第1部「創るチカラ」
「つくる」という言葉を漢字に変換してみると「作る」「造る」「創る」とある。その中でも「創る」ことについて、仮説をたてること、文章を生み出すこと、歴史をつくることなどを絡めている。

第2部「ことばの旅」
「ことば」というとふと思い出すのは「日本語の乱れ」であったり「正しい日本語」であったりする。私自身も日本語に関する本を読んでいくと、日本語は進化しているだけで乱れているわけではないという考えを持ってしまう。もっとも清少納言の「枕草子」の一節にもそういったことを嘆いている一文があったのだが、これを言ってしまえば、不毛な論議になってしまうのではないか。
日本語の乱れはさておき、言葉は文法があり、文章にはどのように書けばよいのか最低限の決まりはある。しかし日本語には、文法が崩れていても、パラグラフ(段落)が崩れていても通じる部分がある一方でひらがな・カタカナ・漢字と多種多様の種類がある。ことばは難しさもあるのだが、あたかも「旅」ができるようなおもしろさも存在する。

第3部「あたまの散歩道」
物覚えがよいことは良いことなのだが、物覚えが悪いことは決してマイナスなものではない。忘れることによってまた新しいことを覚えることができる、また新しいことを考えることができる、ということを挙げている。本章ではこのことを「健忘」と定義している。

私自身忘れっぽい性格である。もっとも多読であり活字中毒症の私は文章を色々読むのだが、その読んだ後に覚えているかというとけっこう忘れていることが多い。そのことを負い目に感じたのだが、むしろそれは新しいことを学ぶことができるとポジティブにとらえた方がよいということを本書でもって気づかせてくれた。