ストラディヴァリウス

楽器の中でも最も有名であり、なおかつ価格も数億、場合によっては数十億にものぼる「ストラディヴァリウス」という楽器なのだが、その楽器には未だ謎に包まれているものがあるという。もっともストラティヴァリウスはアントニオ・ストラディヴァリという人物によって作られたものであるのだが、ストラディヴァリを含め、人物と楽器の謎にはどのようなものがあるのか、そして解き明かされたものとはいったい何なのか、そのことについて取りあげたのが本書である。

第1章「ストラディヴァリとは何者か」
アントニオ・ストラディヴァリの成年は1644年が有力視されているが十分な資料が存在していないため、はっきりしていない。しかし没年、及び活躍した時代についてはすでに判明している。北イタリアの小さな街に生まれたが、これもまた資料などは飢饉などの混乱した時代の最中にあったため、明確な資料が存在しないという。
少なくともわかっているのは16歳の頃から弦楽器職人に弟子入りし、本格的に弦楽器職人への道を歩み始めたことにある。そして結婚を経て、職人としての腕も評価されていき、大金持ちになっていったという。生涯で制作した弦楽器の数もまた謎であるが、はっきりとしているのは、残っている数は、

「ヴァイオリン 約250本
 ヴィオラ   約20本
 チェロ    約50本」(p.35より)

である。ちなみに上記3種類だけではなく、ストラディヴァリはマンドリンやハープなども制作したのだという。

第2章「謎と伝説」
第1章にて残された楽器の本数からしても希少価値はあるのだが、それだけでは何億にものぼるほどの価値が出てこない。では、どう言った価値が出てくるのだろうか。そこにはある「謎」と「伝説」があるという。とはいってもよく考えて億必要があるのは、「そもそも300年以上の時を経て、今もなお現役でもって
奏でることができている」ということ自体「謎」である。本章では木材やニスなど、楽器政策の際に必要となるものそれぞれを深堀りしながら取りあげている。

第3章「激動のヨーロッパ史と失われた楽器」
ストラディヴァリウスは300年という長い歴史と共に歩んでいった。もちろん「激動」と呼ばれる時代を経て、私たちの目と耳を楽しませてくれている。当初ストラティヴァリがつくった楽器は教会や王室に献上されていった。それは何を意味しているのかというと、大陸間、もしくは国々の戦争に巻き込まれる。その戦争の間に失われてしまったり、離ればなれになってしまった。同時にその歴史が「物語」となって、ストラディヴァリウスに付加価値をつけていったともいる。

第4章「楽器は誰のものか?」
当たり前なようでいて、けっこう重要な題目が本章といえる。その理由には、ストラディヴァリウスという楽器そのものにブランドがあり、なおかつ甘美な音を奏でることができる。特に前者の場合はコレクターや商売人のための考え方であり、後者は演奏家の考え方である。その両方を考えると、誰のためのものなのか、というと定まっていないといえる。

第5章「演奏家が愛した名器」
ストラディヴァリウスに魅せられた演奏家は古今東西数多く存在する。その演奏家たちの経歴、及びどのようなストラディヴァリウスを持っていたのかについて
紹介している。

ストラディヴァリウスは今もなお演奏家やコレクターなどの方々によって愛されている。著者もまた、そのストラディヴァリウスに魅せられた一人であり、写真家としてストラディヴァリウスを数多く追い続けてきた。その足跡が本書でもって示したと言える。