日本の軍歌~国民的音楽の歴史

「軍歌」というと右翼を連想してしまう方も多いようだが、そもそも日本における軍靴の歴史は明治時代にさかのぼる。その草分けとなったのは1885年に「来(きた)れや来(きた)れ」が登場したことにあるのだという。それからヒット曲になった軍歌も存在し、中には「ミリオンセラー」にまでなった軍歌も存在した。

本書は国家思想における「軍歌」ではなく、あくまで「大衆音楽」における「軍歌」の存在はどのようなものであったのか、そのことについて取り上げている。

第一章「軍歌の誕生 エリートたちの創作」
元々日本の軍歌は、フランスやドイツを模範にして生まれたものであり、創作自体も当時の帝大教授や文部省の役人といった「エリート」が作ったのだという。当時は録音や音声放送などの技術もなく、楽譜が存在するだけであり、軍歌自体もエリートのものだったのだが、軍歌集などができたことにより、大衆にも認知され始めた。

第二章「軍歌の普及 国民的エンターテインメント」
明治中期には新聞懸賞から広く国民に軍歌を募るようになった。ほかにもエリートだけではなく、作家・詩人、そしてなんと明治天皇も自ら軍歌を作詞したものもあるという。
軍歌はエリートのものから大衆へ、さらには女性へと広く日本に作詞・作曲され、親しまれるようになり、一種の「エンターテインメント」として扱われるようになった。

第三章「越境する軍歌、引きこもる軍歌」
日本の軍歌は朝鮮半島、中国大陸、さらには台湾で歌われるようになっていた。現在も台湾では統治下にあった時代に生きた方々が日本の軍歌を歌う姿が「ゴーマニズム宣言 台湾論」でも取り上げられるほどである。
また、軍歌が「替え歌」されるということも国内外であり、有名になっていったものもあった。

第四章「軍歌の復活 「軍歌大国」への道」
しかし軍歌はいったん衰退の一途をたどった。日清・日露戦争が終わり、つかの間の平和の時代には「カチューシャの唄」や「ゴンドラの唄」などの流行歌が生まれ、ヒットしていったためである。
そして軍歌が復活を遂げたのは昭和に入ってからのこと。SPレコードが生まれ、さらにはラジオ放送がスタートした時に重なる。その時から、広く歌が伝わっていき、特に「愛歌行進曲」といったミリオンセラーも誕生した。

第五章「軍歌の全盛 「音楽は必需品なり」」
やがて、時代は第二次世界大戦、そして大東亜戦争にまで発展していこうとしたとき軍歌もまた数多く誕生し、「黄金時代」を迎えていった。現在も伝えられている軍歌もその時代に生まれたものも多かった。その一方で政府や軍部から押し付けられる形で伝わっていった軍歌も存在した。

第六章「戦後の軍歌、未来の軍歌」
軍歌は1945年の敗戦を境に大きな終止符が打たれたのだが、完全になくなったわけではない。かつてうたわれていた軍歌が変えうたされたり、インストゥルメンタルという形で取り入れられたり、その名残は存在する。と同時に、日本以外でも様々な国では今もなお軍歌が作られており、自衛隊でも軍歌の一部が今も歌われ続けているという。

「軍歌」を掘り下げてみてみると、かなり奥深いことがわかるだけではなく、今も日本人の生活の中に存在するといいざるを得ない。もちろん「軍歌」ということに対してヒステリックになる方もいるのだが、歴史的にひも解いてみると、私たち国民の中に広く親しまれていたことがわかる。本書はその一端を見ることのできる一冊である。