オペラ座のお仕事――世界最高の舞台をつくる

日本における「オペラ座」というといろいろあるのだが、本書では東京にある「新国立劇場」を取り上げている。「新国立劇場」が開場したのは1997年、本格的な「歌劇場(オペラ座)」として建立され、現在までオペラ・舞踊・演劇など多岐にわたって公演が行われている。

そのオペラ座で2001年9月より、専属合唱指揮者となった方が新国立劇場での毎日、そして指揮者の仕事、そしてこれまでとこれからについて綴っている。

第1部「こうして僕は指揮者になった」
著者は元々大工の息子であったのだが、中学に入ってしばらくした時に音楽に興味を持ったという。それから吹奏楽部を経て合唱部に入り、音楽にのめりこんでいた。のめりこんでいった姿は父親にも理解され、大学進学のころには音大進学も許すようになったという。それから著者の音楽人生がスタートしていった。そうして国立音大に進学し、卒業後、指揮者の勉強をするため、恩師の門をたたき、さらにベルリンへと渡っていった。

第2部「オペラ座へようこそ」
話は変わってここでは「新国立劇場」における公演の裏話を綴っている。最近のもので言えば2012~13年にて公演されていた、ジャミン・ブリテンの「ピータークライムズ」、それ以前にもヴェルディの「マスク」「アイーダ」「オテロ」、そしてジャコモ・プッチーニの「マノン・レスコー」がある。特に「マスク」「アイーダ」におけるエピソードは非常に面白い。その理由として普段見られるオーケストラとは異なる、「オペラ」ならではのジレンマがあり、それが生々しく綴られているからである。

第3部「やっぱり凄かった! 世界のオペラ座」
著者は新国立劇場の合唱指揮者に就任する前後、いくつかのオペラ座を渡り歩いた。就任前後に重なるものであれば、世界でもっとも有名なオペラ座「バイロイト祝祭劇場」である。ここでは毎年「バイロイト音楽祭」が開催されるが、その歴史については別の書評で記しているため、ここでは割愛する。著者はそこで祝祭合唱団の指導スタッフとして従事したことがあり、そのことについても綴っている。
就任後にも研修や事業の一環としてオペラ座に参加した。一つがイタリアにある「スカラ座」、もう一つが北京にある国立劇場がある。著者はそれぞれの経験の中で日本人に足りないもの、伝えるべきことについて綴っている。

第4部「指揮者のお仕事」
指揮者の仕事を見る前に、指揮者としての恩師について紹介されている。その人とは日本を代表する指揮者の一人である山田一雄氏である。その山田氏との指導をうける日々についても取り上げられている。
そして指揮者の仕事とは何かについて、自らの仕事を振り返るだけではなく、世界的な名指揮者の姿とも比較しながら綴っている。

日本の「オペラ座」の合唱指揮者として活躍している著者が綴った指揮者人生と同時に、著者でしか綴ることのできないオペラの舞台裏を垣間見ることができた。そう考えるとオペラ、ないし新国立劇場が二倍、三倍楽しく見ることができる。その力が本書にはある。