呑めば、都―居酒屋の東京

「住めば都」を捩っているタイトルだが、東京にはまさに居酒屋が多く、場所によって特色が異なる。本書は東京のありとあらゆる土地の居酒屋をめぐっているが、あまつさえ日本人でも興味深いのだが、本書は日本文学を専攻しているアメリカ人が自ら居酒屋をまわって取り上げているだけあって、日本人の知らない着眼点がある。

第一章「セーラー服とモツ焼き(溝口)」
「溝口」は駅名から「溝ノ口」と呼ぶこともあれば、地元では「のくち」と呼ばれている。本章でも言及しているが厳密に言えば本章だけ東京では無く、神奈川県川崎市に属している。しかし東京からわずか2キロしかないことからあえて含めているという。
「溝ノ口」駅を降りたところには商店街があり、そこには立ち呑み屋、穴場的な呑み屋も存在するという。

第二章「おけら街道のヤケ酒(府中・大森・平和島・大井町)」
「おけら街道」は中山競馬場から西船橋駅までの道を表している。名付けられた当時は中山競馬場の最寄り駅となる「船橋法典駅」ができる前の事であり、最寄り駅が西船橋駅だったこと、その道は非常に長いものの、競馬でスってしまい、帰りのバス賃も払えず、とぼとぼと西船橋駅まで行く姿を「おけら」と呼ばれていることから名付けられた。
そう考えると本書の核となる「東京」を取り上げていないのではないかと思われてしまうのだが、実はこの「おけら街道」は中山競馬場特有のものではなく、全国津々浦々に点在する。本章で取り上げられている「おけら街道」は競馬場(府中・大井町)の他にオートレース(平和島・大森)が挙げられる。

第三章「パラダイス三昧(洲崎・木場・立川)」
戦後間もない時に東京都江東区東陽一丁目と呼ばれる所は別名「洲崎パラダイス」と呼ばれている赤線地帯だった。スポットとしてもあまりにも有名で映画や短編小説の舞台にもなった。その「パラダイス」と呼ばれるスポットは洲崎のみならず木場や立川にも存在した。そこにもまた呑み屋のスポットもあり、本章にて紹介している。

第四章「カウンター・カルチャー(赤羽・十条・王子)」
JR京浜東北線に乗ると田端・上中里を抜けると「王子」「東十条」「赤羽」進む。いずれも東京都北区と呼ばれる場所だが、こちらにも呑み屋が点在しているだけでは無く、24時間のハシゴマラソンも可能である。その理由には赤羽に朝から開いている居酒屋が存在するからである。

第五章「八軒ハシゴの一夜(お花茶屋・立石)」
東京都葛飾区に宝町という所に「お花茶屋駅」がある。近くには東京スカイツリーもあり、マンションも次々と建設されているのだという。スカイツリーが建つ以前から下町情緒あふれる街であり、商店街もある。その商店街には独特な酒場があり、本章でも紹介されている。
さらに京成線で言うと「京成立石駅」周辺も紹介されており、駅から出てすぐにあるアーケード商店街も紹介されている。ちなみに本章のタイトルにある「八軒ハシゴ」の由来はこの立石にある「産業戦士慰安所」と呼ばれる新地が八軒で開業したところにある。

第六章「焼き台前の一等席(西荻窪・吉祥寺)」
中央線の界隈には住みやすい地域があり、特に吉祥寺は東京のなかでも人気のあるスポットと言える。その中でも本章では西荻窪と吉祥寺周辺の呑み屋を取り上げている。

第七章「Le Kunitachi(国立)」
国立には一橋大学があり、著者はそこで教鞭を執っている。著者にとっては「近場」と言える様な場所であり、仕事帰りに国立の呑み屋に訪れるということもあるのだという。本章では国立の中でもおすすめのスポットを紹介している。

東京なひとえに言っても様々な場所があり、呑み屋のスポットというと神田や新宿、新橋ばかりではない。他にも昔からある「下町情緒」はもちろんのこと、その土地でしか味わえないような呑み屋もあり、まさに東京は「呑めば、都」と言えるような所と言える。それを本書でもって証明された。