生類供養と日本人

「生類供養」とは本書のまえがきにて、

「「生類」が何なのか、本来は厳密な規定が必要なのかもしれない。だがここでは、生きもの=動物と考えていただいてよい。具体的には、本書で扱っている生きものの全体である(ただし、本来の「生類」にはヒトも含まれる)。そしてわが国においては、「供養」こそが動物の命を奪う、いただく際の罪悪感を薄める「装置」、ないし「行為」または「儀礼」と考えていただきたい」(p.14より)

とある。動物を食べたりする際の罪滅ぼしとして墓を建立することを挙げており、日本では「八百万の神」が存在しており、動物にも神がいることを崇める、あるいは感謝する役割も含まれているといっても過言ではない。そのため、動物を供養するための「墓」が全国に点在している。本書は日本中にある動物の「生類供養」を取り上げている。

第一章「海の生類供養」
海の生物として「ウミガメ」や「カニ」「カイ」、そして最近では海外でも話題となっている「クジラ」の生類供養について取り上げている。特にクジラは先日も「イルカ漁」に関する本で取り上げたのだが、本章にて取り上げられているのは山口県の仙崎や大分県の臼杵にスポットを当てている。

第二章「山の生類供養」
山にすむ動物というと、本章ではクマやイノシシが挙げられている。イノシシといえば「ボタン肉」として鍋物として扱われ、クマの場合も日本におけるジビエ料理や薬膳などで幅広く扱われている。
いずれも狩猟によって食肉にするのだが、その代わりに供養する所もある。イノシシの場合は「熊野権現」、クマの場合はアイヌの伝統儀礼の一つである「イヨマンテ(イオマンテ)」を取り上げている。

第三章「里の生類供養」
里の動物として食用もあれば、養蚕など衣類を生産するための動物も存在する。本章ではカイコなどの虫の他にウシ・ウマなどの動物についても取り上げている。特に虫についても供養されており、大分県佐伯市弥生にある「螽蝗衆蟲(しゅうこうしゅうちゅう)供養塔」を中心にあるという。いわゆる「農民と虫」との関係として「イナムシ(稲虫)」が本章にて挙げられている。

第四章「伝説の生類墓」
本章にて取り上げられている「伝説」は日本にて言い伝えられている「神話」もあれば、神話以外での「言い伝え」についてイヌとシカについて取り上げている。イヌは全国津々浦々の墓が挙げられるが最も有名なものとして「忠犬ハチ公」がある。シカの場合は大分県にある岐部神社にある「鹿墓」について取り上げている。

第五章「日本人と動物と生類供養」
日本人の生類供養は外国人からみてどのような印象を持ったのか、もちろん宗教も含めた価値観の違いがあるのだが、生類を殺生する価値観そのものをどう捉えているのか、そのことについて文献と共に取り上げている。

そもそも「生類供養」は日本独特の文化の一つであり、長年にわたって醸成されていったといっても過言ではない。もっとも日本には生も死も地続きにあり、なおかつ人間のみならず動物にも「神」が宿っている文化・性質があることから「生類供養」があるのではないかと考える。しかもその「生類供養」は地域によって異なり、それぞれ人間と動物との「共生」のあり方を示しているとも見て取れる。