食は国家なり!~日本の農業を強くする5つのシナリオ

誰が言ったか忘れてしまったのだが「環境問題は「食糧問題」だ」と主張している方がいた。もっとも環境の変化により、農作物が育たず、飢饉が出てきて、それが食糧問題に発展していくという展開であるが、あながち嘘ではない。日本は食料自給率こそ39%(カロリーベース、平成25年現在)という現実はあるのだが、飢饉になってしまったことは戦後一度も起こっていない。

「食」は人間が生きていくうえで大切なことの一つであると同時に、第一次産業でありながら、国の根幹の一つといえる。そのため農業政策は国家にとって大切な要素の一つである。しかしその「食」にまつわる国家政策の中で「TPP」と呼ばれる交渉があり、大詰めを迎えている様相なのだが、賛否とも激しい議論を行っている。

本書は食の現実をあぶりだすとともに、日本がどのような政策を行うべきか、それぞれの政策を「シナリオA~D」に分けてシミュレーションをしている。

第1章「日本の食の現実」
日本の食料自給率は世界的に見ても低いことは言えるのだが、食の現実は食料自給率が低いだけでは片づけられない。要因として挙げられるものとして2000年代以降に起こった「食品偽装事件」や「疫病」に関するものがある。ほかにも2008年9月に起こった「事故米」など日本における「食」の安全が危ぶまれているというのも「食」にまつわる問題として挙げられる。
ほかにも食料自給率に関連するのだが、農地の縮小や農家の減少も本章にて取り上げられているのだが、実施に農家の希望者もあり、なおかつ会社が農業に参入するという話も聞く。その状況に農協をはじめとした農業関係者が対応しきれていない部分もある。

第2章「シナリオA:保護主義」
本章以降は現状とともにどのような対策を行っていけばよいのか、大きく4つに分けてシミュレーションを行っている。ここでは農業自由化に対する反対、および「TPP反対」論者がよく主張している「保護主義」である。もっと言うと農業保護のために補助金でもって保護を行うものである。しかしそういった政策は元々行われてきたものであり、それが衰退に導いていったという。

第3章「シナリオB:完全自由化&国際化」
だとしたら逆に農業を完全自由化を起こし、輸入・輸出とも自由にして、国際化を行っていくことが必要であるというのだが、こちらもこちらで農業に対して悪影響を及ぼしてしまう。その一つとして農作物の原価の下落、そのことにより、農作物を作っても稼ぐことができないという弊害がある。

第4章「シナリオC:主権化及び多様化」
次に農業を国策の一つとする、あるいは多様化に対応するということであるのだが、こちらについては旧来の農家、あるいはそれに関連する方々との軋轢が出てくることは間違いない。しかしそういった大転換を行うことによって、日本人における「食」に対する意識が高まるとしている。

第5章「シナリオD:「無策」ではなく「不策」」
本章ではあえて「何もしない」ということを提示している。そうしてしまうと衰退を助長してしまうように思えるのだが、実際には、

「個人が主体になった自己責任社会。また、この状態は一種の無政府状態に近いかも知れない。個人が個人の心の赴くまま、全く他人と違った生き方を生きる。つまり人間生活の多様化、これは「不策」と言ってもいいだろう」(p.179より)

とあるように、生活の多様化に順応することによって農業を活性化するというよりも農業を生き残らせるということを提唱している。

「食」は人間を支えることの一つであるため、「食」を司る農業は国家に関する重要な対策の一つである。そのため農業政策は国家政策の中でも重要な政策の一つであるのだが、政策によっては衰退の一途をたどるものもあれば、繁栄をもたらすものもある。ちなみに本書にて取り上げられている政策はいずれも一長一短あり、現在の状況にあった政策を選ぶ必要がある。それを選ぶのは国家次第である。

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