斗棋

将棋の歴史は、6世紀頃からとされているのだが、この頃は貴族たちのものとして受け入れられたのだが、江戸時代に入って貴族・武士だけではなく庶民の間でも親しまれ、とりわけ「賭け将棋」として広がっており、それだけで生計を立てるいわゆる「真剣師」と呼ばれる賭博師たちも存在した(ちなみに賭博は江戸時代では重罪だった)。

本書は江戸時代末、いわゆる幕末の時代における俠客・賭博師の集団が対立を起こし、「人間将棋」でもって戦うというものである。「人間将棋」といえば毎年4月に山形県天童市にて開かれる「天童桜まつり」にて行われるものが有名であるが、本書で取り上げられる「人間将棋」は駒がぶつかった場合、殺し合いを行うという。しかも普通だったら取られた人が殺されるのだが、

「一方が死ぬ。一方が負けを認める。この場合、買った方の駒は盤上に残り、破れた法の駒は消える。もう一つの結着は、相討ちだ。この倍は二つとも駒が盤上から消える」(p.54より)

とあるように、取られた駒がなくなるとは限らない。そのため普通の将棋とは形が異なり、二度と盤上に戻れないシステムである。

一応は「将棋」なのだが、駒の扱いとしてはある種「チェス」のようにも見える(普通の将棋は取った駒を使うことができるのだが、チェスの場合は取った駒を使うことができないため)。

そういった将棋という名の殺し合いの先に何があるのか、そしてどのような殺し合いがあるのか、将棋以外の部分でも楽しませる一冊と言える。