ヒトはなぜ難産なのか――お産からみる人類進化

ヒトが子供を産むときには、肉体的負担がかかるといわれている。そのため「難産」と言われているのだが、もともと「出産」自体死ぬ可能性のあることがあり、女性にとっては最もつらいことの一つとして挙げられる。しかし医療技術の進歩により、母子死亡率が減ったことから死のリスクは低減しつつあるのだが、過酷なことに変わりはない。そのことからヒトの出産は「難産」であるのだが、それは人類の進化とどのような関係があるのか、そのことについて考察を行っているとともに、出産そのものの歴史も取り上げている。

1.「ヒトは難産?」
ヒトの出産はなぜ他の種類の出産(産卵)と違って「難産」と言えるのだろうか。その要因としてヒト独特の骨格によって成り立っているためである。しかし霊長類の出産でも同じ種類のサルなどの出産方法についても比較している。

2.「解剖学的構造の進化とお産」
ではなぜ骨格が難産の理由となるのか、本章ではそれついて解剖学の見地から紐解いている。1.にて紹介されている哺乳類のチンパンジーやヒトの祖先であるアウストラロピテクスの骨格などを比較しながら、難産のメカニズムについて説明している。

3.「難産は現代人の定め―難産な理由」
しかし難産は現代人において「定め」であるという。それは人類の進化によってそうさせてしまったのだが、ではどのような進化でもって難産となってしまったのか。本章ではヒトになる前からアウストラロピテクス、ネアンデルタール人などの人類の進化とともに出産の変化について追っている。

4.「人類進化と妊娠・分娩進化史」
3.の進化により現代人は「難産」であることが証明されたのだが、そうであったのなら現代人の出産は難しく、なおかつ分娩死も起こりやすいのではないかと考えてしまうが、出産による死亡が少ない理由として出産をおこなうための分娩の進化も起こったからであるという。本章ではその分娩の歴史について取り上げている。

5.「出産介助者の出現」
分娩の進化もあるのだが、ほかに出産により死亡が少ない要素の一つとして「出産介助者(助産師など)」の存在がある。しかしその「出産介助者」は存在しているとはいえ、国・地域によって存在や役割が異なる。それは民俗や習慣に起因しているものであるという。

6.「理想のお産」
現代は難産であるものの、それは医療の進化によって作り出したものではなく、あくまで人類の進化によって成り立っている。しかしそんな状況でも医療技術によって母子ともに死亡する事例は少ない。とはいえ人類の進化、医療技術の進化は現在進行形で進んでいる。その進化は出産しやすくなるのか、それともより難産になるのか、定かではない。

人類に限らず動物が繁栄をもたらすために「出産」は避けて通れないものである。しかしその「出産」が難しくなると、その動物の存続が難しくなってしまう。現に人間は難産の状態にあることを考えると、人類の進化は岐路に立たされていると考えるべきかもしれないが、幸いにも医療技術が難産のリスクをカバーしている。そのことを知るとともに、人類の進化を「出産」にフォーカスを当てているユニークさが非常に面白かった一冊であった。