江戸の風評被害

風評被害というと今でこそ福島第一原発事故に伴う放射能の風評被害が存在する。またほかにも様々なデマなどにより風評被害となり、実害となったケースは数多く存在する。

こういった風評被害は現代独特のものかというと、実はそうではない。実は本書で取り上げる風評被害は江戸時代に起こったものであるという。しかもその風評、いわゆる「うわさ」はお金が大きく絡んでいたという。本書はそのことも絡め、江戸時代にあった風評被害について取り上げている。

第1章「蕎麦を食べると当たって死ぬ―食品をめぐる風評被害」
今でこそ蕎麦は日本食の一つとして有名であり、落語の世界でも「時そば」をはじめとした演目でも取り上げられる。その蕎麦が実は「あたって死ぬ」というような風評被害に遭っていたという。いつごろかというと1813年、ちょうど江戸時代の末期に差し掛かったころだった。ちなみにこういったうわさや風評は「風聞」と呼ばれるものであり、もしもこれが虚偽だったら死刑になるなどの重罪となった。

第2章「水道に毒が入れられた!」
風評は時として国を揺るがすパニックに陥ることもある。1973年に起こった「第一次石油危機」における日用品の買い占めパニックは、石油に伴う風評によってつくられたといわれている。
日用品であればまだ良い方だが、本章ではタイトルから見るにシャレでは済まされないような「浮説(うわさ話)」がある。これは1786年に出回り、江戸中が大混乱に陥った。ちなみになぜこの浮説が起こったのかというのを本章にて分析しているのだが、政治的な思惑が「風評被害」を生み出すことも本章にて取り上げられている。江戸時代でも政治的な思惑で出てくるのだが、これは現代でも同じことが言えるのかもしれない。

第3章「大地震と風評―社会不安を煽る虚説」
大地震といえば、4年前に起こった「東日本大震災」がある。この震災でも多くのデマが発生して、混乱に陥ったケースもあった。
江戸時代にも1855年、江戸で壊滅的な被害をもたらした「安政江戸地震」がある。その地震とそれからの復興の中で起こった浮説についても本章にて取り上げられている。

第4章「貨幣改鋳と浮説と虚説―お金をめぐる風評被害」
風評が経済を動かすケースは少なくない。しかもそれが世界的にも揺るがすようなこともあるという。
本章では江戸時代における経済的な浮説・虚説がいかに江戸時代における経済市場に影響を及ぼしたのかを、歴史的な観点から取り上げている。

第5章「改鋳浮説の予防と金銀通過統合をめぐる浮説」
第4章で取り上げた浮説・虚説について野放しにしていたわけではなく、それに関連する対策も行っていた。どのようなことを行っていたのかというと「指令」もあれば、被下銀(くだされぎん)といったものをつくるなどの方法があった。

第6章「米相場と浮説―米価・貨幣・棄捐(きえん)令をめぐる風評被害」
江戸時代でも金・銀・銅などの貨幣が使われたのだが、ほかにも「米」もまた通貨として扱われた。もちろん相場などはお金が動くため、第4~5章のように浮説や虚説による風評も相次いだのだが、それにまつわる対策・指令もあった。本章ではそのことについて取り上げている。

第7章「神社仏閣と「風評利益」」
風評というと、「風評被害」などのマイナスなイメージを持たれるのだが、逆に「風評利益」のようなポジティブな影響をもたらすケースもある。そのケースの多くは「神社仏閣」にあったという。

第8章「開帳とビジネス」
「開帳」とは、

「通常は厨子(ずし:仏像・舎利(しゃり)または経巻を安置する仏具)などに入れて人の目に触れさせない秘仏や本尊を、特別な日などに厨子の扉や帳を開いて拝ませるもの」(p.264より)

とある。「ご開帳」とも言われるのだが、こういったことは祭りや催し物の時に使われたり、人を集める際に使われたりするなどがあるという。寺院が利益を確保するために、ある種ビジネスとして扱われたという。

江戸時代における「メディア」について何度か取り上げたことがあったのだが、それとともに「風説」や「浮説」などのうわさ話や風評といったものがあった。しかしその風評がどのような影響を及ぼしたのか、本書で見てみると、規模や状況は違えど、少なからず社会に影響を及ぼしていることは江戸時代も現代も変わらないことが分かる。