ひと相手の仕事はなぜ疲れるのか―感情労働の時代

対人関係の仕事をするのはサービス産業の宿命であるのだが、その仕事は「感情」でもって仕事をする職業がほとんどである。しかしその感情を酷使するあまり、うつ病を始めとした「心の病」も発生している現状もある。

その現状を考えてみると、なぜそういった感情労働で精神的な疲労を負ってしまうのか、その関係性について、感情労働そのものの定義とともに取り上げている。

第一章「「感情労働」という心を売る仕事」
そもそも感情労働とは何なのか、調べてみると、

「肉体や頭脳だけでなく「感情の抑制や鈍麻、緊張、忍耐などが絶対的に必要」である労働を意味する」Wikipediaより)

とある。さらに見てみると、

「感情労働に従事する者は、たとえ相手の一方的な誤解や失念、無知、無礼、怒りや気分、腹いせや悪意、嫌がらせによる理不尽かつ非常識、非礼な要求、主張であっても、自分の感情を押し殺し、決して表には出さず、常に礼儀正しく明朗快活にふるまい、相手の言い分をじっくり聴き、的確な対応、処理、サービスを提供し、相手に対策を助言しなければならない」Wikipediaより)

がある。上の意味を取ると「クレーム対応」や「接客」といった仕事でも、お客にとって害をなさないように仕事をすることから名付けられている。本章では肉体労働と頭脳労働との違いから、ディズニーランドや葬儀社のケースとともに取り上げている。

第二章「ギリギリの感情労働を生き延びるために」
しかし感情労働となると、良く出てくるのが「お客様は神様です」と言う言葉にある。この言葉は三波春夫が自身のステージの中で発した言葉であるのだが、本当の意味での「お客様」は三波にとって公演に来てくださった聴衆のことを指しているだけで、小売店などの買い物客など全てのお客に放ったものではないと公式サイトの中でも言及している。
しかしその誤った解釈が、医療の現場へと広がり「モンスター・ペイシェント」なるものが誕生している。その存在と現状についても本章にて言及している。

第三章「「人のために働く人」の落とし穴」
感情労働に従事している人には本章のタイトルを年頭にして働いているのだが、そこには落とし穴があるという。その事例として前章と同じく医療現場があり、とりわけ「白衣の天使」と言われる看護師が中心となって取り上げている。

第四章「暴力を振るう男たちの弱さ」
第二章にて「モンスター・ペイシェント」を取り上げたが、その中でも相手に暴力を振るうようなケースもある。医療現場でも看護師や医師に対して接し方や治療が気に入らないという理由から暴力事件に発展したケースがあるという。本章ではなぜ暴力を振るうのか、さらには怒りを爆発させるのか、その心的な原因についても分析している。

第五章「失われた感情をどう取り戻すか」
感情労働を続けていると、心労が原因にもあるのだが、感情が失われる人もいる。また人によっては自分がどのような感情なのか分からなくなってしまう人もおり、そのことから心的な病に冒されたり、犯罪に手を染めたりすることに発展してしまう。本章ではその傾向と対策について取り上げている。

第六章「「マクドナルド化」する世界」
本章で言う「マクドナルド化」は、一言で言えば「効率化」である。一見するとビジネス的には良いことのように見えるのだが、実際には感情や人間関係も含めて「効率化」することもあるため、「効率化」の悪い側面が表立ったことから表している。またマクドナルドはアルバイト・パートの労働にはしっかりとした「マニュアル」があり、それに従って動くというのがある。それが接客を中心とした企業によって広がったことにより、自分自身の感情に左右されることなく働くようになったのだが、それが労働者の感情を押しつぶしてしまい、心的な疲労を引き起こしてしまう要因となっているという。

本書の著者は日本赤十字看護大学の教授であるため、医療現場における「感情労働」の現状を深く取り上げている。もちろん医療現場のみならず、様々な労働現場で「感情」を使って働く所もある。そう考えると医療現場における現状でも、その他の職業にも通ずるところがある。