菌世界紀行――誰も知らないきのこを追って

「菌」と一文字だけ書いたとき、あなたはどのようなイメージを持つのだろうか。人によってはポジティブなイメージを持たれる方もいるかもしれないが、中には、病原菌やウイルスなどネガティブなイメージを持たれるかもしれない。

しかし「菌」は地球上の生物と同じく、あるいはそれ以上に「謎」餓多い。ただ、本書はサブタイトルにもあるように、あくまで「きのこ」だけにフォーカスを当てて取り上げている。

1.「雪の下の小さな魔物―雪腐病菌とはなにか」
いきなり初めて聞く「菌」に出会った。「雪腐病菌(ゆきぐされびょうきん)」とは、

「雪の下で踏ん張っている植物たちに感染して、じわじわと植物に病気、その名も「雪腐病」をもたらす。それが雪病腐菌だ」(p.2より)

と、文字通りの意味である。さらに「雪腐病」は、

「積雪地帯に発生するムギ類,イネ科牧草,マメ科牧草などの病気の総称。積雪下で菌が繁殖し,雪解け直後に茎葉が腐敗,枯死する。鞭毛菌(べんもうきん)類,子嚢菌(しのうきん)類,担子菌類,不完全菌類などに属する数種の菌類によって引き起こされる。」コトバンクより)

とある。この雪腐病菌は日本にも存在するのだが、種類が少ないので、まだまだたくさんある種類の雪腐病菌を求めて、ロシアやバルト三国にまで赴いた。

2.「ぶらり北極一人旅」
どう本章のタイトルを見ても「ぶらり」と軽々しく旅のできない場所である。できるとしたら、ある俳優に騙してでも連れて行くどうでしょう軍団くらいである。
しかしなぜ「ぶらり」と北極へ一人旅をする必要があったのか、その理由として1.にて述べた雪腐病菌を探しに行くというものである。

3.「着いてもすぐに帰りたい―シベリアふたり旅」
アメリカのアラスカと同じくらいに、ロシアのシベリアは広く、なおかつ冬は日本では想像できないほど厳しい。そのような厳しい環境の中でどのような雪腐病菌を見つけたのか、そのことについて取り上げている。

4.「荒波こえて南極へ―はじめての集団行動」
3.までは単独で旅をしながら研究にいそしんできたのだが、本章では「中国南極考察隊」に入り、まだ見ぬ種類の雪腐病菌を探しに南極にわたった。その南極の時にどのような出会いがあり、どのような雪腐病菌があったのか、そのことについて取り上げている。

色々な菌を探す旅なのかなというイメージを持ってしまったのだが、実際に探すのは色々な種類の「雪腐病菌」だけだった。また本書では雪腐病菌だけではなく、現地の紀行がふんだんに盛り込まれており、ある意味「岩波科学ライブラリー」らしからぬ部分が多かった印象があった。