先生、ワラジムシが取っ組みあいのケンカをしています!―鳥取環境大学の森の人間動物行動学

本書のタイトルからしてあまり想像できないのだが、どのようなケンカになるのか興味を持ってしまう。もっと言うと本書の帯には、

「黒ヤギ・ゴマはビール箱をかぶって草を食べ、コバヤシ教授はツバメに襲われ全力疾走、そしてさらに、モリアオガエルに騙された!」

と記載されている。もうどこからツッコんで良いのか分からないくらい、ツッコミどころ満載のように見えるのだが、真面目に説明すると本書は森の動物がどのような行動をするのか、その行動を考察している。

<森のダニは水のなかでも1ヶ月以上も生きる>
ダニというと日本ではけっこう害虫のイメージが強く、家の中でもダニが発生したら駆除をしてしまう。もちろんゴキブリと同じくダニは名前を出しただけでも嫌悪感を露わにする方もいるのだが、地球には多種多様な生物がいるようにゴキブリにしてもダニにしても様々である。なので本章で語られる「森のダニ」がいてもおかしくない。ちなみに本章ではその「森のダニ」が水で生きることができるという発見とそのメカニズムを取り上げている。

<モモンガか巣から滑空する姿を見るモモンガエコツアーはいかがですか?>
モモンガというとぴょんと前足を広げて滑空する姿を思い浮かべる。その姿を見るというツアーを計画しているのかと思ったら、実験で巣箱から滑空するシーンを見るというものである。

<大学の建物を生息地にするツバメたち>
最初に述べた本書の帯にある、

「コバヤシ教授はツバメに襲われ全力疾走」

はおそらく本章に該当しているのかも知れない。「カラスやトンビに襲われる」ことはごく自然にあるのだが、私のように「ハトに襲われる」ことになったり、著者がツバメに襲われたりするような話は珍しい(私はハトになめられたことが原因だが)。
それはさておき、本章では著者の大学に生息しているツバメを観察している。その観察の中で卵を入手したり、巣作りの過程を観察したりしているのだが、見てみると著者がツバメに襲われても無理ない。

<ナガレホトケドジョウの二つの生息地にせまるそれぞれの危機>
ドジョウと言えば、かつて日本でごく当たり前にあったのだが、現在は全国的に絶滅が危惧されている。前章までと違って少しシリアスなタッチとなっている。本章では大学の近くに生息しているドジョウの様子からどのような危機に遭っているのかを取り上げている。

<イモリやモリアオガエルの棲む池やモモンガの森での学生実習の話>
本章では著者が学生と行った「自然環境保全実習」の一環として実施した話を綴っている。この実習の中でイモリやモリアオガエル、モモンガなどの出会いがあったのだが、その出会いと共に、学生はどのような反応をし、どのような学びを得たのかなどを綴っている。

<ヤギ尊重の環境教育村>
本章のタイトルは環境問題を動物行動学の範疇で分析するプロジェクトのようなものの名前であり、著者が名付けた。その理由は、

「元気な学生がドサクサにまぎれて(何かの間違いで)ヤギ部に入ってくれるかも知れない」(p.148より)

だという。元々は「ヤギ部」だと言うことは推測できるが、そもそもヤギの飼育部なのかというとそうではなく、ヤギの生態を研究する集団のことを表している。

<鳥取環境大学“ツタ”物語>
ツタというと、色々と見かけることがあるのだが、そもそもツタはどのように成長していくかは分からなかった。本章ではそのツタがどのようにして成長していくのか、ツタの「幹」はどこにあるのか、そのことについて取り上げている。

<ゴマという黒いヤギの話>
<ヤギ村長の環境教育村>の続編にあたる章であり、ヤギ部に新しく「ゴマ」という黒ヤギが入ってきたことから物語は始まる。その黒ヤギは「ゴマ」と名付けられ、ゴマを巡ってのドタバタ劇が繰り広げられることとなった。本章ではそのドタバタ劇の一部始終が綴られている。

科学的な本というと、色々な用語が織り交ぜるなどかなり取っつきにくい内容が多い。しかし、本書はむしろ生物学について何も分からない方、あるいは動物についてあまりよく知らない方を対象とした、いわゆる初心者向けの一冊と言える。もっと言うと生物学を挫折した方であればなおさら勧める。なぜならば生物の生態がこれほどまで面白く取り上げている本はほとんどないからである。もちろん生物の奥深さ・面白さを併せて楽しみたいのであれば、本書、及び本書のシリーズがうってつけである。