ロック・フェスティバル

今となっては富士やひたちなか、さらには石狩など全国ありとあらゆるところで行われているロック・フェスティバルなのだが、それがどのようにして日本で行われるようになり、広がりを見せていったのか、本書はフジ・ロック・フェスティバルを皮切りに、様々なロック・フェスが行われるようになった要因について、ステージやバックステージ、さらにはミュージシャンや関係者の証言をもとに取り上げている。

第1章「奈良の大仏とボブ・ディラン―ロック・フェス前史」
ロック・フェスティバルは様々なものがあるのだが、その中でも異色だったのが1994年に行われたのが「グレート・ミュージック・エクスペリエンス」と呼ばれるものである。なぜ「異色」なのかと言うと、本章のタイトルにもある通り、奈良県の東大寺大仏殿前である。そもそもなぜ本書の第1章にこれを取り上げたのか、その理由は単純で著者は読売新聞の音楽部記者であるが、その記者になってから初めて担当したのがこのフェスだった。

第2章「混乱と泥沼のスタート―フジ・ロック・フェスティバル(上)」
フジ・ロック・フェスティバルは今となっては有名なものだったのだが、そもそもスタートは前例のないこと、そして泥沼や混乱があったフェスはなかった。本章と次章にわたってそのロック・フェスが開かれるまでのプロセスを取り上げている。本章では前半として波乱となった企画の立ち上げから、第1回目のスタートを取り上げている。

第3章「定着と進化の道のり―フジ・ロック・フェスティバル(下)」
1回目の泥沼と波乱があったのだが、2回目はどうだったのか、その2回目が行われるにあたって、1回目の課題を解決し、定着に向けて邁進していったという。その経過を取り上げている。

第4章「後発の強みを活かした都市型フェス―サマー・ソニック
通称「サマソニ」と呼ばれるフェスであり、2000年にスタートした。そもそもフジ・ロック・フェスティバルは郊外と呼ばれるようなところで行われたのだが、サマソニは当初こそ、富士急と大阪・WTCにて行われたという。その後千葉や幕張など都市部にてフェスが行われるようになった本章でそのプロセスを取り上げている。

第5章「老舗の苦闘と可能性―ウドー・ミュージック・フェスティバル」
フジ・ロック・フェスティバル以前にも行われたロック・フェスはいくつかあった。その中でも老舗と呼ばれたのが「ウドー・ミュージック・フェスティバル」と呼ばれるロック・フェスである。70年代から行われており、その時代によく聞く方々であれば有名だったのだが、途中で中断・再開があったという。その苦闘の歴史を本章にて綴られている。

第6章「小さく生んで大きく育てる―クアルトとsxsw」
本章では日本ではなくノルウェーで行われている「クアルト・フェスティバル」、アメリカのテキサス州・オースティンで行われている「サウス・バイ・サウスウェスト(sxsw)」が開催されるまでと現在について取り上げられている。海外でも多くのロック・フェスが行われているのだが、著者が本書のために取材を行った中で印象に残ったのがこの2つのロック・フェスであるという。

第7章「ロック・フェスが与えたもの」
著者が長年取材し続けたロック・フェスの数々。その中でロック・フェスが私たちにもたらしてくれるものはいったい何なのか、長年取材してきた中での答えを綴っている。

私自身はロック・フェスに参加したことがないのだが、雑誌や動画などメディアを通じてその熱が伝わってくる。しかしそれらのロック・フェスは裏方・アーティストを含め、数多くの方々の支えでもってつくられている。本書はそのプロセスなどを取り上げられているのだが、ロック・フェスの醍醐味が違った角度から見ることのできる一冊と言える。