生き心地の良い町―この自殺率の低さには理由(わけ)がある

日本では毎年3万人以上の人が自殺をするという。なぜ自殺数が増えたのかというメカニズムは、「働き盛りがなぜ死を選ぶのか―<デフレ自殺>への処方箋」という本を取り上げたときに、「失われた10年」ないし「失われた20年」の時、それも特に97年金融危機の後に急速に経済的な不安が出てきたことにより、突然自殺者数が3万人を超え、以降20年近く続けて3万人を超えている状況にある。

自殺の現状はここまでにしておいて本書の話に移る。本書で取り上げる舞台は徳島県海部町(現:海陽町)を取り上げているのだが、なんとそこでは自殺率が全国でも極めて低いとして知られている。その要因はいったいどこにあるのか、著者自ら海部町に渡り、その原因を探った。

第一章「事の始まり―海部町にたどり着くまで」
いわゆる「自殺希少地域」と呼ばれる地域は、そのメカニズムにまつわる研究はいわゆる「取扱注意」と呼ばれるテーマだったという。しかしなぜ「取扱注意」なのか、それはその分野における研究ならではの土壌にある。科学にまつわる研究であれば新しい分野・考え方への挑戦は積極的なのだが、こういった社会科学に関する研究はむしろ消極的にあることから「取扱注意」と名付けられたのである。しかしその「取扱注意」の壁を跳ね除け、自殺防止のカギを見つけるために海部町に訪れたという。

第二章「町で見つけた五つの自殺予防因子―現地調査と分析を重ねて」
その海部町へと渡り、現地調査のために滞在した中で分かったことが5つあったという。本章ではその5つの因子を取り上げられているのだが、「人に関する考え方」「自分と他人との立ち位置・つながり」「病気との接し方」と言ったものがヒントとなる。

第三章「生き心地良さを求めたらこんな町になった―無理なく長続きさせる秘訣とは」
なかなか定義しづらい「生き心地」である。その理由として「生き心地」は自分自身が感じるものであり、個人差があるため、全体的に解決することは非常に難しいといえる。しかしそのような難しい解決を海部町は成すことができたという。

第四章「虫の眼から鳥の眼へ―全国を俯瞰し、海部町に戻る」
最初にも書いた通り、現在は「海部町」という表記は存在しない。市町村の併合により、「海陽町」となっている。なぜあえて本書は「海部町」と表記したのか、その理由について取り上げている。

第五章「明日から何ができるか―対策に活かすために」
この海部町を教訓に、どのような街づくりをすべきか、そして国として、個人として、どのように自殺を予防していけば良いのか、その対策方法を提示している。

自殺率は都道府県、さらには市町村によって大きく異なることはわかっていたのだが、旧海部町が、自殺率が最も低い地意識であることは初めて知った。しかしそういった町を知り、そしてなぜ自殺率が低いのかを知ることができることで、自殺を予防できるヒントができる。もちろん旧海部町と同じような形では通用しない部分もあるのだが、考え方は教訓にできる。