蜷川幸雄の劇世界

「世界のニナガワ」と呼ばれ、数多くの芸能人を舞台に上げた演出の鬼・蜷川幸雄が今年の5月に帰らぬ人となった。稽古や本番前のリハーサルなどで怒鳴ったり、物を投げたりすることが多く、そのことから「鬼」と名付けられたといえる。しかしその妥協なき演出によって、アイドルを演劇の世界に踏み入れさせ、そして大成した方も少なくない。その妥協のない演出はどのようなものだったのか、長らく蜷川の演出を見続けてきた著者が解説するとともに、蜷川との対談を行い、そして演出した劇を評している。

Ⅰ.「演出家・蜷川幸雄の特質」
演出家・蜷川幸雄とはいったいどのような人物なのか、その生涯と、演出家人生とともに取り上げているが、その人生の中で欠かせない人物がいるという。その人物とは劇作家である清水邦夫氏である。清水の原作で、蜷川が演出を行い、舞台で演じられていった作品も数多くある。ある種二人三脚でつくられ、「世界のニナガワ」の礎となったのだが、その2人は完全に信頼していたというわけではない。2人を巡ったトラブルも多かれ少なかれ存在したが、本章ではその中でも特に大きかった2つの事件を取り上げている。

Ⅱ.「対談 演出家の役割―国際研究集会・60年代演劇再考」
本章で取り上げている対談は2008年の10月19日に東京の早稲田大学で行われた「早稲田大学演劇博物館グローバルCOEプログラム「演劇・映像の国際的教育研究拠点」による「国際研究会・60年代」」にて行われた対談を採録したものである。「60年代」と銘打っているだけあり、長らく蜷川の演出がどのように変化を遂げ、演劇の世界に影響を与えていったのか、そのことが中心となっている。

Ⅲ.「劇評」
最後は蜷川幸雄が演出を行った数多くの演劇を一つ一つ評している。もちろんすべてではなく、著者が印象的なものを選び、評している。

妥協なき演出で演劇界に大きな影響をもたらし、ひいては芸能界にも多大なる影響を及ぼした蜷川幸雄の足跡を迫った一冊だが、演出家として数多くの作品を生み出し、演出しただけあり、ひと言だけでは語ることができない。長きにわたって蜷川演出の演劇を見てきたからでこそわかることは著者にはわかるし、そのことが本書にてありありと表している。