時の名残り

本書の著者である津村節子氏は今年の6月で卒寿を迎える。その卒寿を迎えるとなると作家活動の集大成とも言えるような作品も出てくるのかも知れない。

その一つとして本書があるのだが、89年もの時を流れた中での名残を見つけに様々な旅を続け、12年前に死別した夫・吉村昭氏との思い出、そして1959年に処女出版をしてからもう間もなく作家活動60周年を迎える中でどのような小説を書き続けてきたのか、長きにわたる思い出をエッセイにしてしたためている。

もしも一つの道を永良期に渡って続けていくとどうなっていくのか、その中で脇道のような道が著者にとって小説として昇華して行ったのか、そのことも含めて綴っている。
戦前・戦中・戦後の時代の流れと、そして作家としての苦悩と、そして何よりも90年近く歩み続けてきた著者自身の轍がここにある一冊である。