いなしの智恵 日本社会は「自然と寄り添い」発展する

「いなす」とは、

「1.人を行かせる。帰らせる。離縁する。
 2.相撲で、急に体をかわして相手をおよがせる。
 3.転じて、相手の攻撃・追及を軽くあしらう。
 4.愚弄する。悪口をいう。」「広辞苑 第七版」より)

という。本書では2.のことを挙げているのだが、元々相撲の言葉であるのだが、格闘技の世界でもけっこう挙げられる。そもそも相手の気持ちや力を読み解き、利用すると言うことは人と自然との関係にもあるのかもしれない。「いなし」と言う言葉は日本独特の言葉であるのだが、なぜ生まれ、そしてこれからの日本に必要なものなのか、そのことを論じている。

第一章「「いなし」の技は、日本人の心のあらわれ」
日本の言葉に「負けるが勝ち」と言う言葉がある。あえて負けさせることによっていつの間にか勝つようにするというようなスタイルである。また「いなし」にも似ているものがあり、振るっている相手の力を利用して勝つようなスタイルを定義しているのだが、相手の力を「利用」して行くのも日本の技術の良さとしてある。

第二章「日本の庭は「見上げ」の庭―「まなざし」から日本と西洋の自然観を読み解く」
イギリスと日本は「庭」の景観で有名であるのだが、傾向は全くと言ってもいいほど異なる。イギリスは効率化した中で、そぎ落とすことによって人工的な自然の庭園をつくる。これに対し日本は今ある自然を最大限に利用してそのまま作りながら庭園としての「美」を培っていく。

第三章「元本に手をつけず利息で暮らす―「里山」にみる自然と寄り添う哲学」
かつて「里山資本主義」と呼ばれる本がある。今から5年前に出版された本であるのだが、里山を最大限に利用して経済を醸成していくものである。その里山を最大限に利用し、いわゆる「地産地消」を行うことで経済を活性化することができる。それは「自然をいなす」ことと同義とも言える。

第四章「100万都市・江戸は「循環型自然共生都市」だった」
そもそも東京、その前の地名である「江戸」は現在の東京ではないのだが、人口は多かった。にもかかわらず様々な文化も栄え、自然もあった。その自然と共に暮らしながら様々な苦難と成長があったとも言える。

第五章「2020年「東京オリンピック」と東京再生の未来」
東京オリンピックは再来年にあたる2020年に開催される。それに向けて様々な再開発が進んでいく中で、著者は環境問題を解決に一歩でも進めるにあたって自然との共生を活かした「東京再生」を提言している。

第六章「豊かさを深める「いなし」の技と心」
豊かさは資本的なものなのかと言うと、かならずしもそうとは言えない。それは「心」と言う人もいれば、「自然」と言う人もいる。本書はあくまで「自然」とのいなしを表しているため、自然の豊かさを深めるためにどうしたら良いのかを取り上げている。

かつて日本は自然と共生していた。その風潮を戻すために「いなし」が必要であるという。もちろん現に「いなし」を利用した対策は行われているのだが、共生をはかるための「いなし」への試みはこれからも開発されていくのかも知れない。そのきっかけとなる一冊と言える。