電子書籍の衝撃

今月の8日にアップルからiPadが発売された。もうすでにキンドルが出回り始め、いよいよ電子書籍時代の到来かと言われ始めてきたように思える。その中で紙媒体、出版業界では総売り上げが右肩下がりといわれ、いわゆる「活字離れ」「本離れ」というのが進んでいると叫ばれている。

本書は電子書籍が広がることによって、読書や出版、そして出版業界がどのように変わるかについて考察を行っている。

第1章「iPadとキンドルは、何を変えるのか?」
最初に書いたのだが、iPadがアメリカで発売されたのが4月8日のことである。日本で発売されるのは現時点で5月末になるだろうと言われている。amazonで発売しているキンドルは昨年の秋頃に発売され、全世界で広がりを見せている。日本では年末に発売されるだろうと言われている。
日本では日本語に対応した電子書籍はそれほど出回りを見せておらず、後れをとっているといっても過言ではない。その理由については第2章にて詳しく説明する。
電子書籍というと「iPad」や「キンドル」が中心のように思えるのだが、アメリカでは他に「ヌック」や「ソニーリーダー」が挙げられている。
電子書籍が出回りだすと、例えば青空文庫など今では廃れている作品を身近に読むことができ、どのような環境でも読むことができる。本章では「アンビエント化」と定義している。

第2章「電子ブック・プラットフォーム戦争」
日本でも今から12年前に電子出版を行う構想があった。その名は「電子出版コンソーシアム」であるが、これはわずか2年で頓挫してしまった。技術的な問題もいくつか抱えていたが、最大のネックとなったのは書店、出版社の「しがらみ」が強く、脱却させることができなかったためである。
これは現在の電子書籍や「Googleブック検索」の事柄に関してもいえることで、著作権や既存の紙媒体から変わることへの抵抗が異常であったこと、既得権益を侵す者を断固として締め出そうとしたものから生まれたといえる。
これは音楽業界にも似た例が存在するが、音楽ダウンロードについて成功を収めたところとしてiTunesが挙げられている。

第3章「セルフパブリッシングの時代へ」
今度は書き手の話に移る。今までは活字出版をするにも出版社経由で編集をいただいたり、さらには紙媒体にするために時間とコストを必要となったりした。
しかし電子書籍が誕生すると、そのコストもいらなくなる。ISBNコード申請やアカウント申請は必要であるが、WordやPDF、HTMLなどで書いた者をアップロードをすることによって誰でも簡単に出版をすることができる。ただし、自費出版に近いものであるため、PRをするにもテクニックや時間は紙媒体以上に必要であるリスクはあるが、これも音楽ダウンロードで起こっている新しいマーケティングスタイルがあり、そこから学べるところがある。

第4章「日本の出版文化はなぜダメになったのか」
「活字離れ」「読書離れ」と言われて久しいが、実はこの言葉は出版業界や新聞業界が売り上げが右肩下がりであることを理由に叫んでいる詭弁に近いものがあると言っていい。論拠として文部科学省が図書館で借りた本の冊数、また全国学校図書館協議会の統計でも小学生から高校生の平均読書数が増えているという結果が残っている。その一方で40代や50代の平均読書数は減少している。これも著者によるといわゆる「テレビ世代」と言われており、テレビ平均視聴時間も10・20代に比べて2倍近い差がある。
さらに言うと出版業界全体の売り上げが右肩下がりであるにも関わらず、出版点数は未だに増え続けている。その要因として挙げられるのが本に暗い出版業界やそれの取り次ぎを行っている流通業界にあるのではないかと主張している。

電子書籍はホワイトナイトとなるのか、あるいは出版業界を崩壊するウィルスとなるのかは置いといて、電子書籍が誕生することによって廃れていった良書が掘り起こされ、出版社と読者が双方向で発展をしていく大きな変化の表れといえる。
これから日本でも電子書籍の波はやってくる。これから読書がどのように変わっていくのか注視したいところである。