アレクサンドル・プーシキン/バトゥーム

おそらく戯曲を書評するのは初めてである。
戯曲自体は私自身読んだことがないわけではなく、大学4年生の時にグリーグの曲のモチーフとなったヘンリック・イプセンの「ペール・ギュント」以来である。そもそも戯曲と言うのを知らない人のために少し解説をするが、簡単に言うとドラマや演劇で使う「脚本」や「台本」という形式がそのまま本になっているものを指している。そのためか配役から舞台の設定、表情や表現の仕方まで事細かに書かれているため、あたかも自分がどのドラマや劇を見ているかのような錯覚に陥る。小説以上に感受性が強ければ強いほど舞台背景が見えやすいジャンルと言うのも「戯曲」の魅力の一つとして挙げられる。

さて本書に入る。本書の著者は小説「巨匠とマルガリータ」が代表作として挙げられており、戯曲を作る「劇作家」というよりも「小説家」としての位置付けで有名になった。しかし戯曲も数多く発表しており、本書はその中から2作「アレクサンドル・プーシキン」と「バトゥーム」を取り上げている。

「アレクサンドル・プーシキン」
アレクサンドル・プーシキンは実在した人物であり詩や小説で名声を得た。特に「ルスランとリュドミラ」は後に彼と親交のあるミハイル・グリンカの手によって歌劇として作曲された非常に有名な作品である。また「スペードの女王」もチャイコフスキーの手によって歌劇化されている。
ちなみに本作ではプーシキン自身は出てこないが、プーシキンの妻や姉といった周りの人物が登場する。彼女らのやり取りからプーシキンの知られざる姿と言うのが垣間見える作品である。

「バトゥーム」
ブルガーコフは当時のソ連に対する体制批判の作品を数多く発表したために、長きにわたり当局から弾圧をうけた。この「バトゥーム」もそれに代表される戯曲の一つである。
この戯曲の主人公があろうことか「スターリン」である。スターリンと言えば劣等感が強く、コンプレックスも強く感じる男であった。また権力欲持つ狭量であったため裏切り者や気に入らない者、意見が対立する者を続々と粛清したことでも知られている。「バトゥーム」は粛清とまではいかないものの、狭量やコンプレックスへの抵抗という点で忠実に描写されていた。
ロシアの戯曲と言うのは私自身あまり見たことがないが、チャイコフスキーやグリンカが歌劇化しているということを考えると、まだまだ有名な作品はあると考えられる。本書はその一部を紹介したまでなのかもしれない。