ウェブ人間退化論

本書は今現在反映しているIT化を悲観的にとらえ、IT技術の進歩に従ってどんどん日本人は退化しているのではないかと主張している1冊である。

完全に間違っているという感覚で私は本書を読んだのだが、著者の意見には一理あると考える。とりわけ技術の進歩により、人と人とが面と向かって話すコミュニケーションが減っているということは確かにそうかもしれない。当然「話す」ということも最近ではそれほど多くなくなったように見える。しかし、コミュニケーションというのは昔と今では当然違うし昔からもっと昔とでも違う。何を言いたいかというとコミュニケーションというのは絶えず変容しているのではないかということ。だから技術の進歩によるコミュニケーションの変化も私は是であると思う。

しかし後半は全く賛同できない。まずIT化によっていじめが増えたとあるが、これはITとは全く関係がない。親とのコミュニケーションや家族間の環境が主である。その微妙な変化にさらされただけでも子供は敏感に受け止められてしまう。特に離婚や家庭内暴力など急激に悪くなるものは子供にとっても悪影響を及ぼしてしまう。私はそこにあるのではないかと思う。それと周りの取り巻く環境、特に地域の親密感の減少、そして何よりも学校での教師、PTAの在り方の変化などがあげられるのではないだろうか。

第4章では著者が何を言いたいのかがよくわからない。心のメタボリックとあるが何を基準にして行っているのかが本書では全く読めなかった。

そして最後については年に1回ITを離れる程度であれば本書のことがよくわかると思う。私は実際こういう風に触れていなかった高校時代にはいろいろなものを得ることができた。しかしITに数多く触れるようになった大学時代にはさらに違ったものも得ることができた。だからITから得られるものは少ないというのはお門違いである。

ITの悪いところばかりをあげつらっていて何もなかった時をよしとする考え方というのは、いつの時代もそういう考えはあるが、それは現在の進歩を否定しているという己の自己欲求の充足でしかならないと私は考える。本書はそんな類ではなかろうか。