小林多喜二名作集「近代日本の貧困」

いま「蟹工船」が大ブームとなっている。

「蟹工船」と言えば小林多喜二の代表的作品であるが、昨年には漫画化しさらに読書エッセーコンテストを通してブームとなったのかもしれない。それだけではなく、現在のワーキングプアの状況と小林多喜二の作品と通底するところはあったのかもしれない。しかしこれだけは言っておきたい。

確かに小林氏の書かれた時代というのはまさに世界恐慌であった。もっとその前を言ったら第一次世界大戦から続いた軍需により未曾有の好景気にあった。その時から労働者の扱いと言うのは今よりもぞんざいであった。しかし労働をすることによりさらに企業や国は儲けに儲けた。その犠牲を背負ったのは労働者であった。

小林多喜二はその状況を憂い、怒りの気持ちで書いたのであろう。しかしその作品が弾圧により虐殺された。今年と言うのは奇しくも小林多喜二生誕105周年、没後75周年の年である。

本書を述べるにあたりプロレタリア文学について批判する論客も少なくないが、私自身ワーキングプアについても批判したり、小林多喜二の文学についてもある程度は批判する者の、完全批判することはまずできない。むしろ複雑な立場にある。私情であるが小林多喜二が出た大学は、実は私もこの大学の出身である。

私も大学の授業でわずかではあるが小林多喜二のことを勉強した。また大学図書館にも小林多喜二に関する文献をよく見る。そういう意味では小林多喜二と無縁であるとは決して言えない。むしろ完全批判をすると自分の出身大学を否定してしまうので複雑な立場となっている。
さて本書であるが、小林多喜二の短編の小説・評論・戯曲を10作品集めた短編集である。

「蟹工船」だけではなくほかの作品も読みたい人向けの作品であろう。蟹工船が脚光を浴びているが、小林多喜二の作品はこれだけではない。ワーキングプアの問題云々を無視して心から小林多喜二の作品をありのままに触れるほうがいいと私は思う。