千年、働いてきました

本書の冒頭でも書かれているが日本ほど長く続いている会社が多い国はない。本書では200年近くから表題にも書かれているように1000年以上続いている企業もある。

ちなみにその1000年以上続いている企業は「金剛組」であり、関西の建設業界では知らない人はいない。金剛組については後ほど述べるとして、本書ではそういった老舗企業の良さと知恵についてスポットを当てている。

日本は世界有数の「ものつくり大国」である。その「ものつくり」を支えているのはなんといっても町工場や多くの老舗企業といえる。事実日本を支えている大企業の多くも創業100年以上経つ所である。では日本は是このように老舗企業が多くなったのかという疑問が浮かぶ。
日本人は今ほど無駄に過剰ではないものの集団意識、組織意識が強い。その中で同じ目的を目指した社員が、様々な面で活躍しながら会社としてノウハウを蓄え現在でも生き永らえる糧をつくってきたのではないかと私は考える。

そして「職人が職人を生む場」でもある。建設や陶芸などの伝統工業は何代も形を大小問わず変われども続けてきていることこそがその場の大きな証である(しかし近年は後継者問題も深刻化していることは確かである)。当然ノウハウの中にも必ず「負の遺産」というものがある。その中でその「負の遺産」を糧にしながら…と言いたいところだがそれをひたすら隠蔽しようとする企業もいくつか見られる。

そう考えると老舗企業のいいところは豊富なノウハウによって新しく、そして安定して成長できる土壌ができているところであるが、反面悪いところは組織の硬直化に陥りやすいところにある。硬直化にすることによって「組織行動論の実学」でも述べたが権力の偏在化による組織の陳腐化も出てき始める。

さて金剛組の話である。本書のエピローグに書かれていたが大阪の建設界の象徴であり、「日本最古の建築会社」として名高い金剛組が一昨年の朝日新聞にて破産申請したという報道がなされた。しかしそれについてはそういう記事があったというだけで実際はつぶれていないという。それはさておき大阪の建設業界ではこんなことが言われている、

「金剛組をつぶすことは大阪の恥」

これほどまでに建設業界のみならず大阪から愛されている象徴であろう。1400年以上続けてきた価値によってこの言葉が生まれたのだろう。
歴史と伝統を重んじる日本人。日本には老舗企業が軒を連ねているがその日本人の特質によって今日の伝統ある老舗企業とその精神が受け継がれているに違いない。そしてそれが日本経済という名の船の大きな櫓として世界経済に立ち向かっていく。