子米朝

今年の10月に桂小米朝が五代目桂米團治を襲名した。五代目米團治の師匠はご存じ人間国宝であり、父である三代目桂米朝。米朝の師匠は四代目桂米團治、つまり米朝の師匠の名を自分が継ぐという形になったのである。当然戦後の上方落語の草分け的存在であったということから大名跡である。これから五代目米團治はそのプレッシャーと戦わなければいけなかったが、米團治が小米朝だった時代でも人間国宝を父に持つ噺家として、七光的存在であった。七光的存在であったが故に周囲の期待はほかの弟子と比べ物にならないほど大きく、それに応えるべく「おぺらくご」を開拓し、落語の稽古に尽力した。

本書ではそんな米團治の半生を描いている。米團治が父の米朝の門をたたき、そこで修業し、ときにはしくじり、落語を見出し、成長していき、そして米團治を襲名というストーリーとなっている。米團治にとっては決して平たんな道ではなかったと思えるが、本書を見た限りではつらい修行と同時に兄弟弟子や師匠、そして周りの方々の関係の温かさを見出せた。決してちやほやされることなく、だからと言って殺伐とせず、温かく・厳しい目で見守り、そしてかわいがられたからでこそ今ここに「五代目桂米團治」がいる。父の七光の重圧のあとの、大名跡の重圧が待っている。それを乗り越えて父とは一線を画した噺家であってほしいというのが本書を読んだ後の私の思いである。