ウィキペディア革命―そこで何が起きているのか?

「web2.0」の代表的なものの一つとされている「wikipedia」。私も参考源としているツールである。オンラインでみることができ、無料であり、何よりも百科事典特有の「辞書を引く」労力を省いてくれる格好のツールである。

序「情報ソースに何が起きているのか」
第1章「動揺する教育現場」
しかし、ウィキペディアの発展により大きな弊害をもたらしたのは言うまでもない。とりわけ大学生のレポート作業に、である。レポートを作成するには多くの文献と出会い、参考にしつつ、自分の意見や答え(結論)を導いていかなければならない。しかしウィキペディアは、そういった「調べる力」を奪ってしまったという。ウィキペディアの情報によってすべてがかなってしまう。何が起こるかというとウィキペディアの記事をそのままコピペ(コピー&ペースト)を行うことができる。そのことが横行してしまうことによってレポートや試験が似たり寄ったりの答えや内容になってしまう。そのことを危惧してか学者や論者が「ウィキペディア」を批判することも少なくない。友人の大学の話であるが、レポート課題の時に参考として「ウィキペディア」を使うことを一切禁じたほどである。

第2章「判定の判断―ネイチャー誌調査の真実」
科学雑誌の権威である「ネイチャー」が2005年12月に調査を行い、「世界的に有名な百科事典「ブリタニカ」と同じくらい価値のある情報源である(p.26より)」と結論付けた。著者はこのお墨付きにもかみついている。調査方法などについて疑問を呈しているようだが、ブリタニカは果たして信頼できるのかという疑問を呈した記事をつけて、それで疑いないとお墨付きをもらい、ウィキペディアも同様のことを得られたら信頼できるのかというと必ず言ってもいいほど解決はしないだろう。疑いがなくなるというよりも嫉妬心が無くならない限りこういったことは解決できないのだから。

第3章「ウィキペディアの裏側」
第4章「間違い、改ざん、虚偽」
ウィキペディアを批判するもう一つの理由として「記事の信憑性」というのがある。ウィキペディアはアカウントさえあれば誰でも書き込みや編集ができる。その弊害からか特定の人物・項目の誹謗・中傷・罵詈雑言が横行する。今では管理人がそういったものを取り合いまったり、信憑性の向上や罵詈雑言をなくすために「ノート」という項目を設けたり、「保護」をかけるようになった。これが功を奏しているのかというと奏していることも有れば奏していないところもある。簡単にいえばわからないというのが現状であろう。だがやらなくてもよかったわけではないというのは確かな話である。

第5章「百科事典の興亡」
ウィキペディアは今となっては代表的なサイトの一つとして挙げられるが、そもそも百科事典の在り方そのものを覆すようなものができたのである。ではなぜできたのだろうかというと、パソコンやインターネットの誕生からさかのぼっていくと戦争などの混沌の状況下から出てきたものである。ウィキペディアができた前後というとイラク戦争であるが、これによって誕生したのかというのは私は分からない。

第6章「ウィキペディアの先駆者」
第7章「ウィキペディアの賢い利用法」
ウィキペディアを使うにあたって本章で2つのタイプに分けている(p.101より)。

・すぐに利用できる情報を検索し増大する情報量を確認する方法
・情報を集め、個人的な考察をくみ上げる方法

というのがある。私としては後者の方をお勧めする、というのは百科事典であれどウィキペディアは「完全な百科事典ではない」のだから。記事ごとに信憑性がピンからキリまで存在する。そのためウィキペディアで調べたことを出発点として情報を集めて個人的に考察を行ったほうがウィキペディアを2倍も3倍も活用できるのではないかと私は思う。

解説「ウィキペディアと日本社会」
ここではウィキペディアと日本社会について訳者が解説しているところである。気になるのがこの解説のページ数自体、1章ごとの平均ページ数を上回っている。もしかすると解説のほうが多いのではないかといういかにも本末転倒な1冊になりかねない。ただ日本の身でスポットをあてると看過できないものが一つある。2007年8月に首相官邸や文部科学省、宮内庁からのIPアドレスから編集されていたというニュースがあった(p.122より)。当公官庁のみならずゲーム作品も編集していたという。日本だけかと思ったらアメリカでもCIAなどの機関で編集されていたことが明らかとなっている。こういった公官庁からの編集をどのように防止すべきかということは日本社会のみならずウィキペディアとしての課題の一つと言える。これは日本に限ったことではなかったが、こちらももしかしたらそうかもしれない、特定の芸能人や項目に関して個人的なプライバシーに抵触するようなこと、あるいはエピソードが過剰に書かれていたりする記事が目につく。これもまた前述のような課題の一つであろう。

「ウィキペディアは完全ではない」インターネット上でやっており、アカウントがあれば大概誰でも編集が可能なツールである。そうであるが故に前述のような課題や弊害が生じることが現状と言えよう。解決の道は並大抵のものではない。