真空国会―福田「漂流政権」の深層

それは3年前の9月から始まった。
小泉劇場が終焉を迎えたこの年の秋に安倍晋三が第90代内閣総理大臣となった。小泉の後継者として多大な期待を寄せられての船出であり支持率は8割をゆうに超えた。しかしその歯車は瞬く間に崩れ、最終的には2割にまで落ち込んだ。翌年(2007年)の参院選では大敗してしまい総理にも責任問題が及んだが結局続投となった。参議院では与野党逆転の「ねじれ国会」となり法案もそう簡単に通らないほどとなってしまった。

強く意気込んで改造内閣の船出をしたのだが、健康上の理由から9月に辞任した。そのあとは福田康夫が首相となったがこちらは私にとってはほとんど支持できない内容であった、というよりも理解に苦しむ内容であった。まず日中交流はほとんど媚びに走り、解散総選挙もどんどん先延ばしにされ、しまいには北海道洞爺湖サミットでは親の無念を晴らすためだけの場(父は福田赳夫で首相にまでなり、サミットも意欲的であったが参加できずに辞任したという過去がある)となってしまった。結局この首相も9月に辞任して、麻生太郎が首相となり現在にいたるということである。

本書は安倍政権から福田政権にかけての国会の現状を刻々と書かれたものである。ちなみに本書は昨年の4月に上梓されたものである。福田政権下の時であるため上の段落の後半の部分は当然書かれていない。

第1章「安倍政権の失速」
安倍政権失速の最大の原因は人選ミスであろう。「お友達内閣」と譬えられたほどである。このときには次々と閣僚の事務所費問題が明らかとなった。ちなみにこのときの幹事長は中川秀直であったが、安倍首相はもともと麻生太郎を幹事長に抜擢させたかったのだという。その無念は改造内閣で晴らしたが、胃の病気で辞任に追い込まれるのは何とも皮肉である。閣僚の人選は万全かに思われたが、野党の事務所費問題への追及が連日のように報道されるや否や5人の閣僚を交代することとなってしまった。とりわけ大きなダメージだったのが松岡利勝元農水相の自殺であろう。また安倍氏自身の根幹であった考えとは裏腹に公明党との関係や、日中融和など積極的に押し出す場面が見られた。また郵政造反組の自民党復党問題も安倍政権のもろさ、安倍氏のお人好しさを露呈することとなってしまった。ただ後者のことに関してはある人を除いては批判されるべきであったと私は考える。「ある人」とは平沼赳夫である。当時から無所属でありながら安倍の心情を理解しており安倍氏にとっても平沼氏は兄貴分の存在であった。政治に関する精神的支柱がほしかった安倍氏にとって平沼氏の復党は、切実な願いであったのかもしれない。

第2章「参院選ショック」
参院選は自民が負けるというのは火を見るより明らかであったが、これほどまで大敗したというのは予想できなかった。この原因は安倍首相にあったのかというと確かにあるだろう。だがこの責任をとって辞任をして、一体だれが後継できるのか、民主も勝ったとはいえ自民の不手際のおこぼれをもらっただけであり今回の総選挙後に政権交代する可能性はあるが、民主党に政権担当能力があるのかというと強い疑問を持つ。だが議会制民主主義を行っている日本において政権交代があまり行われていない。いったん政権に任せてみて信頼できなかったら自民党に戻せばいいという話である。いったん民主党に政権を任せてみてはどうかと私は思う。

第3章「福田政権の誕生」
話を戻す。改造内閣発足後わずか1カ月足らずで安倍政権が崩壊した。健康上の理由であった。その後引き継いだのが福田康夫であったが安倍氏以上に頼りなかった、というよりものらりくらりとしていて大きな決断をできないという印象の方が強かった。結局中国との機嫌を窺うという印象でしかなかったと私は感じている。

第4章「ねじれ国会の迷走」
昨年の参院選以降ずっと「ねじれ国会」が起こっている。これの影響というとイラク特措法改正がずれ込んだことや、日銀の後任人事で異例の空席になり世界的な非難を浴び、揮発油税の暫定税率の期限が切れ4月に大幅に値下がったが翌月に戻ったことがあった。民主党は民主党で政権取るために与党に攻勢を仕掛ける。だが大連立構想による小沢代表の辞任未遂(?)ということが起こり、民主党の弱さを露呈したこともあった。

第5章「衆院戦前夜」
本書が上梓されたのは昨年4月。前述のように揮発油税の暫定税率問題で揺れていた時期である。このとき私の知っている限りでは暫定税率のことで解散総選挙になるだろうというのが大方の見方であった。しかし解散せず今度は洞爺湖サミット後に解散するだろうとされていたがここでも解散しなかった。今度は福田政権が崩壊し、麻生政権での冒頭解散が予想されたがここでも見送られた。あれよあれよという間に2009年となり今度は3〜4月に解散するのではという声も出てきた。しかしこれが見送られれば公明党の関係上、任期満了による解散総選挙になる。ここで「公明党の関係上」というのが出てきたがなぜかというと、今年の7月に東京都の都議会議員選挙がおこなわれるが公明党はその時期にはどうしても解散総選挙に力を入れられないという事情がある。東京都の都議会議員の数によって公明党の将来が大きくかかわるというのである。と考えるとこのままの様相では三木内閣以来となる。有権者にとってはいよいよ国の将来にかかわる総選挙だと期待しているのにもかかわらず、もどかしさだけが独り歩きしているような感じがしてならない。

麻生政権になっても「定額給付金」問題などで大きく空転しているように思える。本書のタイトルである「真空国会」は福田政権から麻生政権になった今でも続いている。「真空」から脱し、実りのある「国会」になるのはいつになるのだろうか。