失墜するアメリカ経済―ネオリベラル政策とその代替策

昨年10月にアメリカの大手証券会社リーマン・ブラザーズが倒産し、世界恐慌がはじまった。もともとアメリカのサブプライムローンの焦げ付きから端を発したものであるが、世界的に景気が冷え込んだのがちょうどこのころであったのではじまった時が前述の時で差支えないだろう。

アメリカはサブプライム問題までは世界一の経済大国として各国に猛威をふるっていた。「大国」という言葉をまかり通らせるほどの軍事もさることながら経済も世界的に牛耳っていたほどである。しかしその世界一の経済大国と言う名もアメリカの手からこぼれおちそうなほどにまで凋落した。本書ではクリントン政権後期からブッシュ政権にかけて行われたアメリカ経済の「ネオリベラル政策」実証を行い、それに基づいて対代案を提案するという一冊である。ところどころ経済学を勉強しないと分からない用語や表現が出てくるのでとっつきにくいところもある。しかしアメリカ経済を実証で基づきながら考察しているところが面白い。

第1章「ネオリベラル合意(コンセンサス)――クリントン、ブッシュ、グリーンスパン、IMF」
第2章「クリントノミックス――虚ろな状況」
第1章では本書の構成、ネオリベラルの在り方を紹介している程度である。本格的にはいるのは第2章、クリントン・グリーンスパンチームでの経済政策の実績とあり方について検証している。クリントンが大統領に就任した時の経済は日本のバブルがはじけて間もない時である。それまでは日本は「バブル景気」と呼ばれるほどの好景気で日本の実業家らがアメリカをはじめ世界中の有名どころを買い占めたというほどである。このことから「ジャパン・バッシング」と呼ばれる非難を浴びせられるほどにまでなった。そういった状況からアメリカ経済を救うためにクリントンは日本企業に対する訴訟を起こし賠償金をもぎ取ったということもあり、さらに高額の関税をかけて輸入を規制させるというようなことを行った。

第3章「「素晴らしさ」の裏側」
「素晴らしさ」とは一体何かという考えに入るが、これは章の冒頭の「素晴らしき十年」と題したクリントン政権で働いた二人の経済学者の論文の題名である。クリントン政権就任時から経済政策の本命として掲げられたのが「赤字削減」の緊縮経済であった。失業率を抑えることによって経済の活性化を行い、さらに貧困の減少といったミクロの政策を行った。リベラル色の強い民主党が好んで行う政策と言えよう。

第4章「貨幣強奪と景気後退――ブッシュ経済」
ブッシュ政権になってからは経済政策ががらりと変わり自由主義経済へと変わっていった時だろう。このときはいまほどではないが世界的に不況に陥っていた時代にブッシュは大統領になった。最初の経済政策はうまくいかず、減税によって経済を盛り立てていこうと画策した。ブッシュの減税政策の始まりである。ブッシュの減税政策はとりわけ富裕層に対しては多く減税されている。民主党を対をなす共和党の経済政策と言えるのではないだろうか。

第5章「グローバルな緊縮の風景」
ここではちょっと世界に向けてみている。まず出てくるのは「アルゼンチンの経済崩壊」である。アルゼンチンは2001年にデフォルト(債務不履行)を宣言し、世界的な信用を失った。景気が良くなってからは再建へ向けて軌道に乗り始めたが、ここにきてまた壁にぶち当たっているようだ。アメリカ発と言われるこの世界恐慌は先進国以上に中国やロシアと言った準先進国、さらには新興国や発展途上国に深刻な打撃を与えた。

第6章「もう一つの道は可能だ」
ここで代替案が出てくる。
簡単にいえばブッシュの政策を反転すればいいということである。ブッシュの政策の反対と考えると民主党、クリントンが行った政策と似てくる。これで経済は回復するのかという疑問が強く残るし、世界恐慌の真っ只中でこういった政策をやるのはむしろ、経済政策に欠けるカネを溝に捨てるようなものである。ブッシュの政策を続けたらいいかと言うとこれも、サブプライムローン問題や世界恐慌の火付け役になってしまったのでだめと言うしかない。

ではどのような政策をやればいいのかと言うと、私の頭の中では思い浮かばない。バラマキをやっても前述のような金を溝に捨てる行為になりかねない。では需要をつくらせる政策にすればいい(新しい規制緩和を行うことによって需要を活性化させる)のかと考えると説得力はあるが果たして需要が伸びるのかという疑問もある。

だが疑問ばかり持っていても解決しない、と言うよりもむしろ悪化の一途をたどるのがこの経済であろう。試行錯誤を繰り返しながら経済を発展させる、あらゆる政策を講じる以外に道はない。アメリカも日本も同じことである。