グローバル・ジハード

もうすでに分かっていることだが「ジハード」と言うのはイスラム教の「聖戦」を意味している。ではなぜこのタイトルになったのかと言うと1998年に遡る。オサマ・ビンラディンがアメリカに対し「グローバル・ジハード」を宣言した年である。当時のアメリカ大統領はビル・クリントン。妻が誰とかはもう言うつもりはない。この時からすでに「テロとの戦い」はひそかに始まっていた。

それが顕著となったのはあの9・11である。そこから急速に「テロとの戦い」が前面に現れアフガン侵攻、イラク戦争に発展した。ブッシュ政権による「テロとの戦い」は結局終わらず新しいオバマ政権がどのように終結していくのかというのが課題であるが、戦線を拡大するのかという危惧も捨てきれない。

本書はいまなお深刻な問題であるイスラムの「ジハード」の思想とイスラム過激派と言ったテログループを丸裸にした1冊である。「イスラム=悪」というような単細胞な論理ではない真正面から論じたものであるため重宝される1冊であろう。

第一部「ジハード主義の思想と行動」
「イスラム原理主義〜」「イスラム過激派」と言う名はいまとなってそれほど聞かなくなったが、9・11ごろからずっとTVや新聞ではこの言葉が連呼されていた。ではこのような集団は一体何なのだろうかという所から始まる。簡単言えばイスラムに関する用語解説と言ったところからであり、イスラムのことについて知らない人にとっては最初から読んだら以降の内容がすんなりと入っていける。ここまでが第一章、そして第二章からジハード主義に入る。イスラム教の聖典「コーラン」にはこのような文言が散見されている。

「神の道のために奮闘することに務めよ」

前後の解釈によるがジハードに通ずることはほぼ間違いない。「ジハード」と言うのは二種類あり、内面との戦い(内へのジハード)と外部との戦い(外へのジハード)と言うのがある。前者でもっとも有名なのは「ラマダーン」がある。世界的なイスラムによるテロと言われるのが後者。この後者の分析が第三章、事例が第二章に書かれている。

第二部「グローバル・ジハードの姿」
さてここからイスラムの中でも過激派にあたる組織について書かれる。まずは「アルカイダ」である。「アルカイダ」についてはこっちからでも調べられるのだが、本書では「元祖アルカイダ」からどんどん取り巻き、巨大化した「アルカイダ星雲」となる抗議のアルカイダまで紹介している。現在イラクにおけるテロについてもアルカイダが噛んでいるところもあり、またアフガン侵攻でもタリバンに加担、9・11テロを首謀し、さらに世界遺産であるバーミヤン遺跡の石像を偶像崇拝を理由に破壊したとされる。イスラムには向かう輩、そしてイスラムにそぐわない輩を徹底的に排除するというのが彼ら、そしてジハード思想のやり口であろう。前述の話に戻るが「アルカイダ星雲」と言ったが本格と言われているアルカイダの間に取り巻きがある、その中にはザルカウィなどといった者たちも含まれている。
後半には「グローバル・ジハード」に走る要因について書かれている。誰かがイスラムのためにジハードを起こす、すなわち海外に向けてテロを仕掛ける。それに感化したものが段々誘発し、それが一種の戦争や紛争となっていく。その他にも洗脳やネットワークの構築によるテロの参加と言うのもある。テロリストになるというのは様々な方法によってなされている。こうした仕組みを破壊することができるのかと言うと残念ながらそう言った方法がない以上不可能である。

第三部「グローバル・ジハードの闘い」
テロとの正しい戦い方、避け方のマニュアルと言ったところであろう。アメリカとの日米同盟を組んでいる以上、テロに巻き込まれる可能性はまずある。日本は八百万の神が祀られており、数多くの宗教の中で生きているとはいえ、イスラム人の中にはそれが気に入らない人もいる。そう考えると日本もそういった対策を講じなければならない…と言いたいところだが自衛隊が行うにしても憲法9条により身動きが取れない状態と言ってもいい(解釈によれば「集団的自衛権」を行使できるという論者もいるがまず無理と言っていい)。言い忘れていたが著者は警視庁公安課長であり、防衛庁(現:防衛省)にも在籍していた人である。さらに前職は「国際テロリズム対策課長」であったためか、こういった対策のエキスパートと言っていい。この部で書かれている対策は我々国民が行えることと言うより、警察や国の政策で行うべき対策と言ったところであろう。

本書はイスラムのテロリズムを考察した1冊としてはなかなかの作品であったのだが、第三部は正直いらないと思った。対策は政府や警察単位で行うべきでありテロリズムを完全に止めることができるのかと言うと、宗教概念から考えると「ノー」と言うしかない。イスラム教の根幹として「ジハード」を有するからである。しかしアルカイダやイスラムとテロについては詳細に書かれているのは称賛に値する一冊であろう。