不安定社会の中の若者たち―大学生調査から見るこの20年

私は1985年生まれであるので「若者」に分類されるだろう。今言われている「若者」というと「就職氷河期」という名の就職難にさらされ、さらに格差社会にもさらされた「貧困」や「ロストジェネレーション世代」、さらに私たちの世代、通称「カーリング世代」を言っている。

毎度のことながら「最近の若い者は…」という俗流若者論が所々言われる。だが昔の「若者」は一体どうなのか、どのような経緯でこういった「若者」に変わっていったのかというのが本書である。

本書は20年にも及ぶ大学調査の中で日本の「若者」はどのように変化していったのかというのを考察している。

第1章「これまでの調査から語ってきたこと」
「20年にも及ぶ」と書いたが本書では5年おきに調査を行ったものをもとにしているので実質5回行ったものをサンプルにしている。「新人類」という言葉が飛び交ったバブル景気の1987年、バブルが崩壊し、「55年体制」の崩壊の足音も聞こえてきた1992年、オウム事件や数々の少年犯罪、そして金融危機により日本中が恐怖を覚えた1997年、長い長い不況の真っただ中にあり学生たちも「就職氷河期」にさらされ疲労困憊状態になった2002年の計5回をサンプルにしている。

第2章「調査対象者に関する基本データ」
ちなみに本書でサンプリングした大学は全部挙げると「桃山学院大学」「関西大学」「大阪大学」など全部で6考に加えて短大1校もサンプリングに加わっている。

第3章「ジェンダーレス社会ではなく男女平等社会に向かって」
ここでは婚姻についてである。今も昔も変わらないのかどうかは分からないが女性が男性の制に改めるというのが一般的とされてきた。しかし本書の統計では「夫の名字を名乗る(べきもその方がいいという人も)」のが87・92年には半数いたのが今となっては「どちらかが改めてもいい」のほうが多い。最近では「夫婦別姓」の議論があるが、民法750条の改正などの改正も含めて今後の議論の火種になるだろう。

第4章「仲良し親子の行方」
数年前にTV番組で「友だち親子」というコーナーがあったことを思い出す。しかし親子というのはこうであるべきなのかという疑問がいまだに残る。親子関係は共働きの増加により疎遠になっている、「ワークライフバランス」や「ワークシェアリング」という言葉を叫ばれるようになったのだが、今度は親の方が子供に歩み寄ってしまうという現実もある。
それはさておき、この章では子供による「親の評価」についての考察を行っている。最近では親子関係が薄弱化していることを考えてみればそれなりに親を尊敬しているように思える。だが後半は「自分は大人になのか」という質問には約8割がNoと答えている。思春期や子供感覚から抜け出せない親もいれば、大人の道に到達していない(しようとしていない?)子供もいるという現状が明らかになった。

第5章「友情がすべて」
「一匹狼」という言葉が半ば死語のように扱われるほどにまでなってしまったように私は思える。これほどまでに「一緒に〜する」という割合が多いこと。とりわけ集団化しているのは男の方である。かつての「一匹狼」がどこへやら、一緒に講義を聞きに行くのみならず昼食までも一緒に、果てはトイレに行く時も一緒に行く人が増えている。私から見たらまるで「金魚のフン」が増えているとしか思えない。

第6章「若者が行動する時――学生たちの社会活動」
ここではボランティアなどの社会活動についての統計である。若者はボランティアに参加しないと憤慨する人もいるようだが、本章の統計を見て半分合っていて半分間違いだということに気づくだろう。ただし女子のボランティアへの貢献は少なくなってきているが、男性は97年に比べても2002年には増加しており、2007年にはやや減少しているが微々たるものである。

第7章「観客型社会関心――面白くなければ興味が湧かない」
「観客型社会関心」とは一体何なのかというのは副題から見ればわかるのだがここでは新聞の読み方から見ニュースの閲覧方法から始まり、若者への政治やニュースへの関心について言及している。政治的関心とするならば2005年の「郵政選挙」が出てくる。小泉元首相のワンフレーズによって有権者の心が動き、蓋を開けてみれば与党の歴史的大勝であった。これについての批判が「若者論」と結び付けて言われることを考えると、現在若者が持っている政治的関心を考えると、私の予想であるが今年の衆議院総選挙は投票率は5〜6%落ちるだろうと考える。昨年であれば揮発油税の暫定税率などの問題によって選挙の火種となるのでわかりやすい選挙となったであろう。しかし福田前首相も麻生首相もなかなか解散したがらない。しかしそれにも理由がある。憲法で保障されている3分の2条項を失うのが目に見えているからだ。おそらく任期満了まで引っ張るつもりだろう。

第8章「現状維持が一番――反抗しない学生たちの政治意識」
話を戻すがまた政治に関してである。統計の変遷もまたおもしろいのだが、好きな政党の統計だが87年はまだ「55年体制」の真っ只中であるため自民党と社会党(現:社民党)の真っ二つである。20年を経て2007年は今度は自民党と民主党と2つに割れている。余談であるが2007年の統計で嫌いな政党を選んだ中で「公明党」が4人に1人選んでいる。創価学会とのかかわりが明るみに出たのかという考えもある。本章では「現状維持」を答えている人が多いというが、果たして今年の総選挙で政権交代が起きるかどうかというのも若者の投票行動によって変わると言っても過言ではない。

第9章「手堅く生きる――学生たちの生き方選択」
「サブプライム問題」から端を発した世界恐慌の時代、身近な幸せを求めて手堅く生きる学生が多い。「手堅く生きる」というタイトルから考えると、またちょっと話を脱線するが不況の影響からか若者世代の貯金行動が多くなっている。1カ月に数万は当たり前で多い人は1カ月に10万円以上ためている人もいる。そう言った風潮には賛否両論の声もあるが、私も以前まではそう言った考えの一人である。しかしセミナーに出始めた今では「自己投資」というのは、明日職場に入れるかどうかわからない今だからでこそ自分の価値を高めていく手段である。「自己投資」をすることによってこの恐慌を自分の友にしていこう。下の本のように。

若者、とりわけ大学生・短大生を20年5回に分けて調査を行った結果、若者の性格や動向と言った者がよい意味でも悪い意味でも変化している。悪い意味で集団意識が強く、保守的になり、堅実になった今の私たち若者。こう見てみると大人になりきっていないというよりも「悪い意味での大人」になっているように思えるのは私だけであろうか。