源氏物語、〈あこがれ〉の輝き

著者のノーマ・フィールド氏(以下:ノーマ氏)は大学時代にいやというほどその名を聞いた。ちなみに私ので他大学は小樽商科大学で、今はブームは去ったが「蟹工船」で有名な小林多喜二の母校である。ノーマ氏はシカゴ大学教授であり、日本研究者である。そのノーマ氏は最近小林多喜二について研究を行っており、私の大学でも上げられ、ノーマ氏も1〜2回ほどその大学で講演を行った。そのことから私は「ノーマ氏=小林多喜二研究」という固定観念があったのだが、本書に出会って、その観念が崩れ去った。

ではなぜ、ノーマ氏は「源氏物語」を取り上げたのだろうか。裏表紙に書かれていたのだがノーマ氏は「小説の熱心な読者」であるという。そして解釈によるあらすじの歪曲化に少なからず危機感を抱いていたという。さらにあとがきにも書かれていたのだが、これは何を意味するのかというと、

「源氏千年紀であると同時に、予期もしなかった「蟹工船」ブームとなった年でもある(p.454より)」という。偶然であろうか、必然であろうか、本書は「出るべくして出た」作品とノーマ氏は位置づけている(しかもノーマ氏は同じ時期に小林多喜二に関する本を上梓している)。
さて本書は源氏物語をノーマ氏自身の切り口で分析している一冊である。

第一章「三人のヒロイン、そしてヒーローの形成」
ここでいうヒーローはもう分かってのとおりであろう。光源氏である。では「三人のヒロイン」とは一体誰なのかだが、「藤壷」「紫の上」「六条御息所」を指している。本章ではこのヒーローとヒロインの形成であるが、ここでは「藤壷」と「六条御息所」が中心となっており、「紫の上」はあまり出てこない。ちなみにここでは一帖から二十一帖の解釈について書かれている。

第二章「脇役のヒロイン、そしてヒーローの後退」
脇役のヒロインというと本章の前半と最後で代表的なもので「玉鬘(たまかずら)」が出てくる。玉鬘は夕顔と光源氏の間に生まれた娘であり、玉鬘の帖については彼女の半生について書かれている。
後半は六条院が出てくる。

第三章「すべての季節の代役」
源氏物語には3人のヒロインのみならず、脇役のヒロインとしてたくさん登場する。そのヒロインの名前は「彼女たちの本質を余すところなく表している(p.218より)」という。
第四章「都の彼方の女たち」
物語では光源氏が亡くなった所からであろう(「幻」の帖から)。そして「雲隠」で第二部が終わる。そしてヒーローが変わり源氏の次男である「薫」が第三部(最終部)の主人公である。

本書は歴史物語の解釈論なのである程度「源氏物語」を読んでおかないと本書の内容にはついていけない。簡単なものからで言うと瀬戸内寂聴がわかりやすく全訳したものがあるのでそこからストーリーを頭にたたきこんでから入るのもよし、「あさきゆめみし」という漫画から源氏物語の大筋をつかんでから読むのもよしであろう。

ただ解釈論として本書を考えるとなかなかに面白い。源氏物語の良さをあらゆる角度から批判的にとらえている。こういった角度で読んでみたいという気持ちになれる一冊であった。