ロシアはどこに行くのか─タンデム型デモクラシーの限界

昨年の5月にロシアの大統領がネドベージェフとなり、8年間大統領の椅子に座っていたプーチンは首相の座に座った。しかしロシアの政府では「首相」こそ最高権力者である。しかも大統領と決定的に違うのが、人気がない、つまり何年でもその椅子に座れるということである。ネドベージェフは表向きではロシアの「顔」になったのだが、実際はプーチンの傀儡になっているという様相もある。プーチン政権時代は豊富な資源を用いて経済を潤沢にさせたが、昨今の急速な景気の悪化はロシアにも響いているのは確かである。その難しい時にネドベージェフは難しい公開となったが、本書は8年間のプーチン政権を振り返りつつ、現在のロシア政治について迫ったものである。

第一章「ガリーナ・ヴラジーミロヴナの長い一日」
序章は大統領交代について触れられている。さて本章ではネドベージェフが大統領選に当選する話、2007年秋〜冬の状況について第1〜2章にかけて書かれている。ここでは選挙活動について書かれている。日本では「公職選挙法」があり、平等な選挙により国会議員なり、都道府県・市町村議員が決められる。万が一不正があればほぼ必ずと言ってもいいほど取り締まれるという。ロシアはどうなのかというと、表面上は民主主義であるが、いかんせんロシアが民主主義国になってから選挙は行われているのだが、それに対する取り締まりがない、もしくはあってもそれが機能しきれていないのだろうか、不正が横行しているという。

第二章「税関ブローカー・イーゴリの憂鬱な日常」
選挙でも賄賂工作などの不正が行われていると言ったが、警察などでも賄賂が進んでいるという。民主主義となったのだが、まだ間もないのでこれからどのようにして取り締まるのかというのがカギとなるが、国民意識がどのようになっているのか分からないのでそのアプローチをどのようにしていけばという考えもある。

第三章「こんにちは、ヴラジミール・ヴラジーミロヴィチ!」
「ヴラジミール・ヴラジーミロヴィチ」というのは誰かというと、プーチンの名前、プーチンを正式にいうと、「ウラジミール・ウラジーミロヴィチ・プーチン」である。大統領を辞してもなお人気の根強いプーチンがテレビ番組にて国民の質問に答えるものを一部公開しているところである。中にはプーチンのそっくりさんがインタビューに答えたり、写真にとられていたりというのもある(体がちょっと大きいのを除けばそっくりに見える)。

第四章「タンデム聖デモクラシー」
国民の間でのプーチンの評価は高い。それまでの大統領(エリツィン)が、強権と政治腐敗などにより国民の生活が逼迫したという要因もあるが、資源を有効に活用して経済を潤わせ、国民の生活を豊かにさせ、世界的な地位も高めさせたということによる評価だろう。その反面黒い噂も絶えなかった。プーチンを執拗の如く批判したジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤが射殺され、反体制運動家のアレクサンドル・リトビネンコが毒殺された。これはプーチン政権の陰謀による疑いもあるが真相は闇の中である。

第五章「皇帝(ツァーリ)を待ちながら」
最近ロシアにおける重大事と言えば2008年8月、ちょうど北京オリンピックの時期であったが、それに合わせるかのようにロシアがグルジアに侵攻したということが起きた。グルジアから分離独立を目指す南オセチア自治州がある。それを阻止せんとグルジア軍が南オセチア自治州に侵攻し、それを守るという名目でロシア軍は南オセチアに侵攻したという。

国際的に非難を浴びある意味で孤立状態となったロシアである。さらに10月のリーマン・ショックにより経済が急激に悪化。ネドベージェフの支持率は下降線をたどっている。もしかしたらプーチンがふたたび大統領の椅子に座るのではないかという見方もありプーチンが民主主義国家の皇帝(ツァーリ)の立場になるのではないかという声もある。

ロシアについての内情を詳しく述べた一冊であるが、ロシアと日本でネックになっている「北方領土問題」、ネドベージェフ政権では解決に全力を注ぐという姿勢を見せているが、さて四島一斉に返還できるのかというのがまだ謎である。この問題について深く知るため、そしてロシアを知るために本書を手に取った。北方領土問題はその歴史も注目すべきであるが、それに匹敵するようにロシアの歴史についても知る必要がある。