熱狂するシステム

人は誰もが熱狂する者を持っているだろう。とりわけ日本人は「熱しやすく、冷めやすい」というのが的確なのか、「熱狂する」と連日のようにメディアで取り上げられる。少し前であったら「冬ソナ」を引き金とした「韓流ブーム」というのが社会現象にまで発展するほどにもなった。メディアのせいというのもあるが、そう言った者につられる国民性だからかもしれない。

本書はその「熱狂」を科学的に考察をする何ともユニークな一冊である。科学の力で「熱狂」を解析するのだからどのような分析を用いて行ない、導き出しているのかというプロセスが面白そうに思える。なお、本書は結構勉強しないとついていけない内容なので、あくまで素人目線読んだものとしてとらえたほうがいい。

第1章「熱狂を科学する」
さっそく難しい用語が出てきた。本書は「エージェント・ベースド・シミュレーション」を用いて「熱狂」を考察しているという。いわば研究に入るための狙いと概略にあたる所である。解説している論文はあるのだが、これも定義の仕方がちんぷんかんぷんなので端的にいうと、人間の思考や行動というのは多種多様であり、それを人工的に作り出すというのは到底不可能である。しかしこのシミュレーションでは数多くの人間の思考・行動パターンをベースにしたものであるという解釈で差支えない。

第2章「連鎖する熱狂」
本書から具体的な考察が始まっている。「流行」の方法にもいくつか種類があるのだが、本書では3種類に分けて流行を分析している。

「ファッション」…流行のあとに、社会に浸透していく現象。「パソコンブーム」がその一例。
「クレーズ」…社会現象を起こすほどの流行のことをいう。
「ファッド」…特定の分野での流行を指す。

である。下に行けばいくほど流行する時期が短くなる。中でも本書は「クレーズ」をよく使っている。さらにこの「クレーズ」には1回で終わるもの、間をおいて発生するもの、連続して発生するものの3つに分かれる。

第3章「進化のモデルで熱狂を表す」
ここでは研究者のモデルを解析し、考察を行っているところである。ある程度専門性のある人にとってはためになるが、私のような素人はこの章は読み飛ばしても構わない。

第4章「熱狂を人工社会に再現する」
いよいよ熱狂を「シミュレーション」する所である。全部で136人をサンプルとしてその思考法をシミュレーションしている。流行の発生規模から流行に敏感な人はどれくらいいるのかというのがここで考察されている。

第5章「熱狂に潜む物語」
第4章で統計した熱狂についてさらなる要因を探す、つまりどのような筋書きがあるのかという所について考察している。

第6章「熱狂の理論と歴史に探す」
第5章までのシミュレーションから少し離れてもっと身近な事柄で熱狂のメカニズムを考察している。ここでは警察庁がまとめた「犯罪白書」をベースにこれまで使ってきた理論を当てはめていくという所である。

第7章「熱狂を生む社会構造」
流行は国々によって起きやすさ、起きづらさというのがあるという。どのような社会構造が起きやすくて、どのような社会構造が起きにくいのかというのをここで考察している。

第8章「自己組織化する熱狂社会」
戦後目覚ましい経済成長により、モノが豊かになった。バブル崩壊のあとは欲求の多様化が目立つようになったと言われているが、流行などもあるため全員が全員バラバラになったとは言い切れない。「自己組織化」というのは難しい表現であるが、あるところで同じ価値観になるということから流行や熱狂と当てはまる面がある。

第9章「社会や歴史の新しい見方」
今や「情報社会」と呼ばれているが、これから「流行の構造」がどのように変化するのか分からない。本書でもあまりページ数は割かれておらず、新しい見方を見るにはまだ時間がかかりそうであると物語っている。

日本人は新しいもの、インパクトのあるものに弱い。一度流行が起こると規模によるが、「みんな持っている(ある)」というような理由から誰もが同じ要求を求めることが出てくる。これは日本人特有なのだろうか、古来日本はそういう性格なのかというのが頭の中で引っかかる。

科学的に熱狂を考察できるのかというのは、本書を読んだ後でもまだまだ疑問に残る。136人をベースに考察を行っていたわけであるが、このサンプル数が増えればより綿密な結果が返ってくるのかというと、研究者の側にとってもサンプルを集めるということで途方もない規模になる。人間の心理を科学的に考察するほど難しいものはないということを悟った一冊であった。

本書は科学的に考察を行ったまでだが、日本人と流行の考察について、人文学的に考察しているものがあればぜひ読んでみようと思う。