転回点を求めて―一九六〇年代の研究

1960年代というと今から約50年近く前のことである。このことについてよく知っている年代というと、団塊の世代以上の方々になる。60年代というとそれよりもずっと後に生まれた私では想像できないことだがどのような事が起ったのかというのも具体的に知りたい。本書は60年代に起こったこと、流行したものなど60年代にまつわる様々な角度から研究した一冊である。

Ⅰ.〈生活〉
1960年代というと電化製品における「三種の神器」と呼ばれる、白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫が世に普及ししている時のころである。東京タワーやミッチーブームと言ったときから爆発的に売れ出したが60年代に入ってもまだ衰えがないことからあえてここで取り上げた。もう一つ理由があるのはその中でも「白黒テレビ」、1964年の東京オリンピックやプロレス人気、とりわけ「力道山」のフィーバーぶりは国民をくぎ付けにさせた。
生活も急激に豊かになりだしたのも60年代、「いざなぎ景気」「オリンピック景気」などの長期の好景気により「衣・食・住」ともに豊かになったのもこの時代からであった。意外かもしれないが、「スポーツ共和国」を追求し、運動が盛んに行われたのもこの時であったという。本書では作家の三島由紀夫が「ボディビルダー」と呼ばれるほどにまで鍛えたというのも明かしている。

Ⅱ.<身体>
「身体」というと前述の「運動」や「食生活」と関連づかれるかもしれないが、最初に出てくるのは衣服にまつわるブームである。60年代では「ミニスカートブーム」が65年ごろから流行しだし、67年にピークを迎えた。今ではもう当たり前のように浸透しているほどである。
もう一つは「病気」についてである。本書では「らい」というところからこの時代の病気について書かれているが、そもそも「らい」というのは「ハンセン病」の原因となる抗酸菌の一種「らい菌」からとられている。もうひとつ「ライ症候群」というのがあるが、これは80年代で起こったインフルエンザなどの後、薬によって肝臓が冒され、死に至らしめるという病気であるが、本書ではこの病気は関係がないので割愛する。特に今では「ハンセン病」にまつわる国家訴訟というのが起こっているが、それによる差別というのも社会問題となった歴史がある。この差別は戦前からずっと継続して行われ続けていたというが、現在はどのようになっているのかはわかっていない。
この章の最後には問題作となった「沈黙の春」について書かれている。これ自体は現在話題となっている「環境問題」についての大きなきっかけとなった作品であるが、のちに四大公害病という形で予見してしまったというのは何とも皮肉なことだろうか。

Ⅲ.<意識>
ここで取り上げないわけにはいかないのが2つある。「60年安保」と「学生運動」である。とりわけ「学生運動」は大学を占拠し、機動隊とぶつかりあったといういわば「内戦」に近いような状態となった。このころには左派が隆盛を喫し、数々の左派機関が誕生した、しかし指針の対立から「内ゲバ」という仲間割れも頻繁に起こり、70年代前半に沈静化したというものである。とりわけ安保条約締結反対とセットに言われたのが「ベトナム戦争反戦運動」とセットでその運動に至ったという。
特に1968年ごろに盛んに行われたのだが、1968年は世界的にも激動的な1年だった。アメリカではマーティン・ルーサー・キングJr.やジョン・F・ケネディが暗殺され、フランスでは「五月革命」が起こり、チェコスロバキアでは「プラハの春」という革命運動がおこった。戦後「革命の年」と言われた時というとこの年のほかないだろう。

60年代についての研究が詰まった一冊であるが、さまざまな事が起こっただけに、これほど格好の研究材料はない。研究ばかりではなくとも60年代の事柄から40年もの時を経て学ぶこともあるのかもしれない。