ドクターヘリ―“飛ぶ救命救急室”

コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」というドラマが昨年人気を呼び、今年の1月にはスペシャルドラマが組まれたほどであった。ちなみにこの「コード・ブルー」は容態が急変し、緊急組成が必要な患者のことを言っている。「ドクターヘリ」は2007年の7月に特措法が成立し、全国各所に配備されているが、まだまだ必要という声が少なくない。

地震や台風による被害、火山災害などの天変地異が非常に多い日本ではこれから必要性が増えることからこのドクターヘリの役割について本書とともに見ていこうと思う。

第1章「ドクターヘリの現状」
「コード・ブルー」で話題となったドクターヘリだが、2008年現在、全国で18か所の拠点が存在する。今年にはさらに24か所まで増やすという方針である。緊急性の病気やけがの時に発揮されるドクターヘリだが、その実証結果も東海大学と川崎医大で公開されており、効果は既に実証されているということが分かる。

第2章「日本の救急医療は今」
日本の救急医療というと「妊婦たらい回し」など救急医療は逼迫している状態にある。メディアはバッシングの矛先を医者ばかりにしており、肝心の医療政策というと医学部の人員増加ということしかできないというありさまである。しかも矛先が医療現場ばかりに言っているためか精神的に病んでしまった医者も少なくない。医師不足も問題の一つであるが意思を増やしたからといって何の解決にもならない。
さらに言うと本書では救急患者が病院収容までの所要時間(2006年現在)を図にしてまとめられているが、全国平均で30分前後と遅いとみていいのかもしれない。その原因は都市部だと交通渋滞、地方だと病院不足によるものである。緊急性を求められる医療だけにこの状況を何とか打開しなければならないが、決定的な手がないというのが現状である。

第3章「世界のヘリコプター救急」
日本ではドクターヘリがようやく出始めたばかりだが、世界に視野を広げてみたらどうか。本書ではドイツを例に出している。
ドイツは1970年にドクターヘリを開始。それから30年間で78か所の拠点が存在する。どれくらいの頻度で使われているのかというと年間約8万件、拠点1ヵ所につき1000件ものドクターヘリが稼働していることになる。当然ドクターヘリには財源が必要であり、使う基準というのがある。財源は患者の負担ではなく、社会保険から負担を行っている。社会保険というと日本では箱モノとか建てられており、無駄が指摘されているが、ドイツではこのことに社会保険が使われているのでまだいいかもしれない(全貌は私にはわからないが)。そしてドクターヘリを使用する基準だがRCC(レスキュー・コントロール・センター)によって統制されている。
他にもスイスやフランス、イギリスでもドクターヘリは使われており、わずかであるが紹介されている。

第4章「ヘリコプター救急の促進」
ドクターヘリがようやく公に出されてきたのだが、肝心な医師不足の問題は足踏み状態である。むしろ少し後退したように思えるのは私だけであろうか。ドクターヘリの事ばかり取り上げてしまっていたが、実は消防でも「消防防災ヘリコプター(以下:防災ヘリ)」というのがあり、1989年に設置された、とりわけ阪神淡路大震災では、教訓として急激に設置数を増やしていき、それとともに活動数も13年間で3倍以上に膨れ上がった。
「防災ヘリ」もドクターヘリとともに必要性が大いに指摘されるのだが、どちらも財源は国と地方公共団体で折半しているという現実がある。またヘリのためヘリポート設置にしても環境問題というのが叫ばれており住民運動がおこるというのも頭の痛いものである。ドクターヘリにしても防災ヘリにしても増やしていかなければいけないが、課題は山積であり前途多難の様相である。

第5章「フライトドクター」
湿っぽい話題ばかりなので、ここからは現場で活躍している人たちにスポットを当てていこうと思う。本書では川崎医大付属病院日本医科大学千葉北総病院の医師を取り上げている。とりわけ川崎医大では99年の試行運行からずっとドクターヘリとかかわってきており、ゆかりが深さが窺える。両者の果敢さと使命感の強さは文章からでもひしひしと伝わってくるほどだ。

第6章「フライトナースの活躍」
ドクターがいるのだからその補助的役割を担う看護師についても取り上げていっている。こちらは千葉北総病院のみ取り上げられている。ドクター同様体力的にも能力的にも高度な力が要求されるミッションである。しかし「素晴らしいシステム」と主張しているほど仕事に自信おり、これからこのような方がどのように増えていくのかというのが楽しみである。

第7章「ドクターヘリに救われた人」
こちらは2008年に起こったケースを取り上げている。ドクターヘリがいかにして人命を救う切り札となったのかがよくわかるところである。

ドクターヘリはこれからの医療には欠かせないものである。天変地異の多い日本ではなおさら必要性が叫ばれる。それに政府、厚労省などがどのようにこたえていくのかというのがカギとなるが、国民やメディアの軋轢からみると課題は山積である。