出版と自由―周縁から見た出版産業

本書は出版ニュース社から出ている「出版ニュース」から月1回連載されている「ブックストリート・流通」欄で取り上げたものを集積した一冊である。
ここ最近では「出版不況」と呼ばれているだけに出版業界内部の実情をありのままに描いている。

「出版と自由 2003年」
この年ばかりではないのだが、ここで取り上げらげられているのは、

「松文館摘発事件」
「ポイントカード問題」
「個人情報保護」
「宝島社裁判判決」

といったものである。
「松文館摘発事件」については「松文館裁判」にて詳しく取り上げるのだが、出版業界にて憲法が担保している「表現の自由」を揺るがしかねない大きな事件と発展した。
ポイントカード問題」はヨドバシカメラがポイントカードにより、場合によってはポイントのみで書籍が購入できることについて、出版社が「契約違反」と批判し、違約金の請求と取引中止を求めるにまで発展したものである。今では大型家電量販店ではポイント還元が当たり前となり、最近では「Tカード」でもポイントで買い物できる時代になった。しかし6年前まで、出版業界では融通の利かない状態になっていたという。
宝島社裁判判決」は主に「有害図書」、「不健全図書指定」の取り消しを求めた裁判であるが、結果から言うと原告敗訴となった。この裁判以外にも「有害図書」と「表現の自由」というのがぶつかり合った裁判がいくつも存在した。2004年では「松文館裁判」という猥褻本裁判もその判例の一つである。

「出版と自由 2004年」
「「表現の自由」とは?」というのが問われ始めたときである。ここでは「松文館裁判」の地裁判決時点での問題点について取り上げている。
「松文館事件」は高校生の息子が成人向けの漫画を読んでいるという投書が国会議員の元に届き、読まれた漫画の出版社の社長が逮捕されるという事件である。ちなみにここで述べられる一審では「懲役一年、執行猶予三年」が下された時である。ちなみにこの裁判は最高裁まで行き、2007年にの上告棄却で結審した。結局は罰金150万円に軽減されたものの、「表現の自由」というのが脅かされた裁判であったように思える。現在では「児ポ法」というのもあるのだが、それの改正や今ではなりを潜めているが「人権擁護法案」というのも「表現の自由」というのが脅かされかねないものである。公序良俗はあるとはいえ多様となった嗜好を方の力で止めていいのかというのは私はいささか疑問をもつ。そのためここでは少し熱く書いてしまった。
これに近いものであるが「成人雑誌の包装義務化」や「青少年健全育成法案」も書かれている。
もう一つ、気になったのが「「国が燃える」抗議事件」である。これは歴史認識問題で抗議されたという事件であるが、私自身これは覚えていない。毎週のように「国が燃える」を読んでいたのにもかかわらず、である。

「出版と自由 2005年」
良くも悪くも「萌え」市場が急速に拡大した年である。80年代後半では「宮崎勤事件」の影響によって「オタク」という言葉がネガティブな表現として用いられた(NHKも放送自粛用語の一つとしたほどである)。今となってはポジティブ・ネガティブ双方で表現されるようになった(どちらかというと前者の方が多い)。
出版業界と関係があるのかと疑いたくなるがこの年では話題となった「共謀罪」というのを取り上げている。これについては「共謀罪」について反対・批判する本が出回ったことからである。

「出版と自由 2006年」
今年出版業界に衝撃を与えている、それは「Google書籍のデータベース化」である。これは日本の書籍、しかも絶版になっているものまで対象に含まれている。日本文芸家協会や出版団体は 当然のごとく抗議を行っている。
ちなみにこの兆候は3年前にも同じことがあった「Googleブック検索」というものである。今とほぼ似ているが、全文が読めるわけではなくあくまでさわりの部分のみ取り上げるというものであるが、全文読めてしまうものもできてしまうのではないかという器具を本書では述べているが、まさかこれが現実に起ろうとは思ってもいなかったであろう。
そして後半で印象的だったのが漫画評論家であり、長らく「コミックマーケット」の主宰に立った米澤嘉博氏についても取り上げられている。「コミケ」や漫画を語るにあたり欠かせない人物である。

「出版と自由 2007年」
2007年問題というと団塊世代のリタイアにより労働人口が大きく減少するというものであるが、ここでいう「2007年問題」はそういった団塊世代向けの雑誌の売り上げ部数の減少というものである。おもに「論座」、「諸君!」「Voice」といったオピニオン誌である。左の三誌は最近休刊となってしまったものであり、この影響はじわじわと広がっている。

「出版と自由 2008年」
またもや「有害図書」や「児ポ法」といったものが取り上げられている。この年は「人権擁護法案」というものが紛糾、さらには「児ポ法」改正の風が強まっていたなかであったためにこのようになったのだろう。

本書はもっぱら出版危機というよりも「表現の自由」「言論の自由」を訴えている印象が強かった。私がはるか以前書評でそういったことを主張していたことが先入観としていまだに残っているせいかもしれないが。
とはいえ活字媒体における出版はこれから佳境に入っていくと思う。「出版不況」と「法規制」のダブルパンチによって滅びずに生き延びることができればいいのだが。