新体操はスポーツか芸術か

新体操というと、音楽とともに柔軟な体でもって美しい演技を披露し、技術点と芸術点の高さを競うスポーツである。本書の新体操のみならず、シンクロナイズトスイミングや冬季競技に至ってはフィギュアスケートといったものも芸術的なスポーツ競技は存在する。本書のタイトルにある命題、「スポーツなのか?あるいは芸術なのか?」については両方である、答えが言えなければ答えに窮する。
本書はこの命題を元選手の立場から考察を行っている。

一章「新体操の故郷を求めて」
新体操」というと女性特有のスポーツと思いがちだと思われるが男子種目もあり、戦後日本で誕生した。
新体操の起源は19世紀以降ドイツを中心に「手具体操」として誕生した。その時の手具は動きのおまけとして使われており、競技はなかった。
それが競技として認められたのは戦後になってからの話で、日本が男子種目として誕生した歴史と重なる。

二章「モダリティで芸術をどうとらえるか」
第一章では歴史を書いたが、ここからいよいよ本論に入る。
本書では「モダリティ」というのが連呼しているように思えるのだが、これは、

「得点には入らないが最も美しい演出」(p.54より)

という定義になっている。この定義をしているとなると新体操は果たして「芸術」の要素が多いように思えるが、はたしてどうだろうか。
「モダリティ」の定義と考えると、素人の私が「どれが得点の付く演技なのか」「どれが得点の付かない演技なのか」というのはわからない。

三章「モダリティ比率による芸術性の変容」
わからない状態でこのまま三章に行くのは気が引けるが、競技の比率と芸術性の比率について分析をしている。
新体操の競技は個人競技と団体競技というのがあるがそれぞれのモダリティというのが違うという。さらに言うと音楽に関することに関してもモダリティの考察を行っている。
では「モダリティ」と定義してこれほどまで考察をされてきたのかというと、「得点」に換算する「スポーツ」と、「美しさ」というのを重視する「芸術」のウェイトを調べるためだという。
身も蓋もないことを言うが、私は中学・高校と吹奏楽部に所属していたのだが、毎年のように付きまとったのが「コンクール」というものである。コンクールはそれぞれの大会でそれぞれの演奏でもって審査員に評価されているところを考えると、「芸術性」というのは何なのかと疑いたくなる。

インタビュー 「ベラ・アトキンソンに聞く」
本書の素材となったのがこのべラ・アトキンソンとのインタビューである。これまで参照にわたって考察を行ったのだがその参考となっているもののほとんどがこのインタビューである。
べラ・アトキンソンは元新体操の団体世界チャンピオンであり、現在では国際体操連盟のメディア・メンバーの一人である。全三回のインタビューで構成されている。

新体操のみならず、フィギュアスケートやシンクロナイズトスイミングといった競技は「芸術性」が求められるが、オリンピックなどでは「競技」として扱われているだけあって、「スポーツか芸術か」という命題を解明するのは非常に難しく、これからの論戦の火種になることだろう。