地上にて

著者の「草風夏五郎」という名前自体聞いたことがない人が多いだろう。
しかし「辻内智貴」という名前であれば聞いたことがある人はいるだろう。
実は本書は辻内智貴氏が昔の筆名「草風夏五郎」という名で徒然に書いた、架空の講演録である。
今から20年ほど前、ちょうど平成になって間もない時から書き始めたものである。
本書の前書きには担当編集者が書いており、本書の原稿、20年前に書いた原稿なのでセピア色に変色したものであったという。
辻内氏の本は私自身読んだことがない。「草風夏五郎」といった名前も当然ない。
そんな私が本書を読んでみた。

Ⅰ.
本書は大きく分かれると2部構成になっている。
ここでは「文明」「経済」「採算」「余白」「技術」「正負」「絶対」「幸福」についての講演である。
現在では何でもある時代であり、経済も傾きかけたとはいえど「経済大国」として名を馳せている日本。しかしその中で日本人として、はたまたは自分自身としての「正負」や「幸福」というものは何なのかというところの本質を突いている。

Ⅱ.
著者曰く、ここからが本論になっているという。
ここでは「生命」「宇宙」「途上」「時空」「遺志」「意味」「目的」「運動」「弱者」「認識」「存在」「故郷」「太陽」「希望」が紹介されている。
人間としての生き方だけではなく、地球上にあるあらゆるもの、いわゆる「森羅万象」を語っている。

結論として本書の冒頭に「本書は、究極の「生き方・マニュアル本」です。」と編集者が主張しているが、まさにその通りである。
徒然に書き残し、公に出てくるまで約20年、まるで熟成されて最高の形で世に出てきたといったという方が適当なのかもしれない。
それだけあって本書の言葉は穏やかでありながらも刃が自らの胸元にぐさりとくる。
そして読了後はそのぐさりときた穴にぽっかりと開いたまま考えさせられてしまう。
人間が生きていく本当の在り方を知ることのできる一冊である。
本書はそれを知る最高の一冊であるといっても過言ではない。