金融危機にどう立ち向かうか―「失われた15年」の教訓

昨年の10月にアメリカの大手証券会社「リーマン・ブラザーズ」が破綻し、「100年に一度の恐慌」と呼ばれる代不況となった。日本では過去にもバブルが崩壊し「失われた10年」とも「失われた15年」とも言われた時代があり、その間に急激な進化を遂げた経済は衰退の一途を辿り、97年には拓銀(北海道拓殖銀行)の破綻や山一証券の倒産、2000年代には「金融ビッグバン」といわれる大規模な合併が相次いだ。私たち労働者も例外ではなく、大規模なリストラにより終身雇用制度が事実上崩壊し、明日働ける場所があるのかどうかわからないと言う状態に陥った。

昨今でも金融危機と言われており、「失われた15年」に近いものとなっているが、過去に教訓がある以上、政府のみならず経済界もこれについてどう乗り切るのか正念場であると言ってもいい。

本書は政治単位でこの金融危機をどのようにて乗り越えていけばいいのかというのを考察したものである。

第1章「「失われた15年」の危機対応策――3つの政策の位置」
93年のバブル崩壊以後、どのような経済政策を行ったのかというのが記されている。バブル崩壊以前に行った経済政策については書かれていなかったのだが、主に公共投資中心でいわゆる「ハコモノ行政」「ハコモノ政策」となり、そのツケがバブル崩壊以後大きな傷跡の一つとして残った。
「日本はこの10年、ないし15年はなにも経済政策を打ってこなかった」という論者もいるが、政府は政策を全く打ってきたわけではない。いくつか行ってきたわけであるが、結果として経済停滞の歯止めにつながらなかったというべきである。

第2章「未踏領域の金融政策」
金融政策の中でもっとも目立ったのが1999〜2000年に行った「ゼロ金利政策」と、2001年から4年も続いた「量的緩和政策」が挙げられる。「ゼロ金利政策」とは中央銀行である日本銀行からの融資に対する金利をほぼゼロにするという政策であり、財政の流動化を招きかねるという大きなリスクの生じる政策である。初めて施行された時は「失われた15年」の真っ只中であり、効果は必ずしも覿面とは言えなかった。むしろこの金利政策をとったことにより、金利政策解除後は消費者指数や株価に大きな影響を及ぼしており、2000年末の政策では同時株安と重なったことにより、大幅な減退となってしまった。
では「量的緩和政策」は何なのかというと金利ではなく、日本銀行の当座預金残高の調節により、金の流通を促進する政策で、デフレ脱却のために2001年3月から5年にわたって行われた政策である。最初の2年はほとんど効果がなく、株価や消費者指数も減少の一途をたどったが、のちに景気も上昇し、効果が表れ始めた。しかしこれの効果についていまだに議論が絶えず、本当に万策であったのかという疑問も根強い。

第3章「財政政策の展開と赤字拡大」
高度経済成長につれて公共投資の額は増大していったが、とりわけ田中角栄内閣時以降はそれが顕著になった。地域の陳情により、道路建設を行う財源を確保するために「揮発油税暫定税率」というのが作られたのも一つの要因として挙げられ、公共投資額が膨れ上がった。中曽根内閣以後日本の財政赤字が膨らみ続け現在では860兆円にも上っている。

第4章「不良債権問題とプルーデンス政策」
「失われた15年」を象徴するものの一つとして「不良債権問題」というのが挙げられる。金融機関によって元本、および利子が返ってこなくなった資産のことをいい、バブル崩壊以後、企業が続々と倒産したことにより、膨れ上がった。これが97年の拓銀破綻や山一証券倒産の引き金の一つになった。本章ではこの不良債権が発生した経緯と経済的影響について、やや学問的ではあるが、かなり緻密に考察している。
後半には「プルーデンス政策」について書かれているが、これは簡単に言うと日本では「護送船団方式」とニュースでは書かれているが、それと同一である。要は行政が経済バランスを維持すべく、バランスシートにおける様々な規制を駆けるというものである。こう考えると一種の経済規制、もしくは「統制された資本主義」というようなもののようであるが、金融破綻した時の救済措置といったセーフティネットを構築する上で重要な政策である。

第5章「世界金融危機における経済政策」
さて世界金融危機である。アメリカなどの国々では様々な経済政策を行ったが、日本だけ取り残されたという論者も多い。アメリカでは金利をゼロに近づかせる、日本の「ゼロ金利政策」のようなものを行い、ある程度まで回復することができた。
実体経済の落ち込みは日本が最悪と言われてきており、ほとんど対策を打たなかったのにはおそらく、バブル崩壊以後行った経済政策の失敗によるトラウマ、保守的な思想などのようなものが挙げられる。
第6章「教訓を生かせるか――3つの政策の新たな課題」
日本には「失われた15年」という教訓がある。それを現在の不況に活かすことができてこそ、経済大国として日本の威信が試されるといっても過言ではない。
現に麻生政権下で様々な経済政策を打ち出しており、その一つとして「定額給付金」が挙げられるが、これについての効果はまだ不明な状態である。経済的には若干上向きとなったのだが、他の要因も挙げられることから雲散霧消になりかねなくなる。「バラマキ」と批判される政策ははたして今の状況にマッチしたのかというのはその評価が返ってくるのはおそらく数年後になることだろう。

金融危機と言われている今日、日本は岐路に立たされているといってもいい。高度経済成長につれて経済大国としてその地位を築き上げてきたのだが、「失われた15年」によりその立場が揺らぎ始め、中国にその座を譲られようとしている。その状況下で日本はどの道を選ぶのか、自らの一票で考えなくてはならない。