苦しみの中でこそ、あなたは輝く

人間は誰しも「苦しみ」から逃れられない。人間の感情のなかには必ずと言ってもいいほどこの「苦しみ」からもがき苦しみながらも「逃れたい」というのがあるだろう。

しかし「苦しみ」抜いてこそ得られるというものも多く、必ずと言ってもネガティブなものとは限らない。

本書は12年前に亡くなった精神科医ヴィクトール・フランクルが強制収容所に送られた体験を経て得た人生論と、フランクル自身の一生についてまとめたものである。

第1章「「いのち」と現代」

「今、いのちがあなたを生きている」(p.14より)

日本語としてはちょっとおかしいように聞こえるかもしれないが、命があってこそ私たち人間はこの世で生きているなによりの証拠である。この言葉はその本質を突いている。ここでは本書の骨格について紹介しており、フランクルの生涯と思想を照らし会わせながら人間はどのように生きるべきか、というのを考察する。

第2章「フランクルの生涯と基本思想」
その問題を考察するに当たっての材料としてフランクルの生涯と基本思想について迫っているのが本章である。フランクルの生涯についてあまり書かれておらず、とりわけナチスによって収容所に強制連行された前後の葛藤についてが書かれていなかったのが残念であった(後半に書いてあったかも)。
フランクル自身が持った思想の根幹がそこにあるのではないかと考える。
後半はフランクルの基本思想についてであるが20世紀似形成された「ニヒリズム」や「科学」といった思想を真っ向から批判、もしくは疑問を唱えたものであった。「時代錯誤」という声もあるかもしれないが、今、「科学」や「ニヒリズム」というのが私たちの考えに浸透していることを考えると、時代の先を言った、もしくは現代のあり方に疑問を唱えた哲学の先駆者という考えもできる。

第3章「人生観とパラダイム転換」
ここではフランクルの人生観を考察しているが、彼の人生観が複雑なせいか、本書の中でもっとも多く考察を行っている。複雑とは言っても大まかにいったら座標軸にして表せられるものであるが、その中で細々としたところが多いため考察が複雑なものとなっている。ここでは細々としたものはあまり取り上げず、簡素に見ていきたいと思う。
座標軸には「縦軸」と「横軸」があり、縦軸は「充足―絶望」、横軸は「成功―失敗」と定義しており、縦軸で充足していれば充足しているほど「ホモ・パティエンス(苦しみながら偉業をする手だてを知っている人)」、横軸では成功するほど「ホモ・サピエンス(「人間」ではなく「何でも知っている人」のことを指す)」という。

第4章「人生の価値」
人生の価値というのは人それぞれであり、一概にこうだというのは言えない。フランクルは人生の価値について大きく、

・「創造価値」
世界の中であらゆるモノやコトを創り出す価値
・「体験価値」
あらゆるモノを体験して得る価値
・「態度価値」
変化しないモノや運命を受け入れる価値

以上の3つに分けて定義を行っている。

第5章「それでも人生はイエスと言う」
「イエス」と言うと宗教上では「イエス・キリスト」のことを言っているのではないかと考える人もいるかもしれない。本章ではそれを言っているのではなく、どのような苦しみや絶望下にあったとしても「イエス」と言ってその状態を受け入れる自分がいる。どのような苦悩に陥ったとしてもその後には必ずと言ってもいいほど「歓喜」というのが待っている。それは自分の望んだ時期ではなく、また自分が望んだ形ではないかもしれない。しかし形は違えど「歓喜」は「歓喜」であると言うことを本章では教えている。

人間誰しも「苦しみ」や「絶望」というのは存在する。しかしその先には必ずと言ってもいいほど「歓喜」と言うのが待っている。いったん苦しみに入ったらそこから抜け出せないと言うことは、無い。著者自身が研究をしたのもあるのだが、強制収容所での極限とも言われる環境の中で見いだした部分もあることを考えると、人生はうまくいかないこともあれば、捨てたものでもないと言うのがよくわかる。