人は勘定より感情で決める ~直感のワナを味方に変える行動経済学7つのフレームワーク

技術評論社 傳様より献本御礼
「勘定」と「感情」のかけ方がうまいとつい感じてしまった。ただ「経済は感情で動く」「世界は感情で動く」と言う本が出ている以上、「感情」なくして、物事を語ることができなくなったといってもいい。この「感情」を経済学として考察を行ったのがこの「行動経済学」である。

「行動経済学」はアダム・スミスの「国富論」において「合理性」と「心理面」の関係について述べていることから始まっているが、表舞台に出始めたのは割と最近になってからである。本書は感情における経済学のメカニズムを、7つの実例をもとに紐解いている一冊である。

第1章「なぜ、売上アップにつながらない販促が正当化されるのか」
販売促進というと、TVのCMやポスター、あるいはPOPといったものまであらゆるものが存在する。私は大学時代スーパーでアルバイトしていただけにスーパーのPOP広告の多さは何度も体験しているとともに、「本当に必要なのか」と毎日のように疑うこともあった。確かに安売りしているPOPがたくさんあれば、「安さ」を求めている人にとってはこれ以上うまい話はないのだが、店舗の景観として、そういった店が多いという悲しい現実がある。
ましてや現在、このPOP効果は果たして聞くのかという疑いさえある。しかしそれがなぜ改善されないのか、数字のレトリック(「ロジカル」ではなく)に飲み込まれているのだろうか。

第2章「S字の魔力がイエスマンを作りだす」
「イエスマン」というと、何かと忌み嫌われる対象となる風潮にある。確かに「自分の意見を言わない」「自分の考えを明らかにしない」などの点では、悪い印象なのかもしれない。しかし日本は協調社会といわれている中で、「イエスマン」は果たして悪者扱いされるべきなのかも疑わしい。
ここまでくると行動哲学や倫理学といった概念になってしまうためここまでにしておいて、「イエスマン」の作り出した環境には日本独特の労働システムが成り立っていた。簡単にいうと年功序列制度によって、ある程度働けばそれなりに稼げる、上司のごますり、もしくは茶坊主となれば出世の道は開けるというシステムの中でめざましい経済成長を遂げた。しかしそれが「失われた10年」の中で大きな足枷に変貌した。経済的な損得勘定が蔑ろにされ手いるようだが、見えない経済の呪縛に飲み込まれている(「価値関数」など)のではないかと感じた。

第3章「ネガティブをポジティブに変える法則」
「あと〜日しかない」
「あと〜日もある」
一言変えるだけでもネガティブがポジティブに変化する。こう考えると、「ネガティブ」と「ポジティブ」は紙一重といえる。しかし両者の言葉には言い方、もしくは言葉一つで、ある種の脅迫にもなる。
一つのことを伝えるのにも言い方一つ、見方一つで変わるというのが「フレーミング(効果)」という。本章はこの「フレーミング」について様々なことが書かれている。

第4章「愛着はムダ仕事の素?」
この題名をみて自分自身の胸にこの言葉がぐさりと突き刺さった。筆入れも時計も10年以上使っており、様々なものに愛着を持っている自分がいるからである。
本章では「サンクコスト」についてであるが、これは、過去に消費した費用の中で回収費用のものをいっている。
それに関連して「教育」という見えない費用をサンクコストに当てはめているところがあったのだが、セミナーや自己啓発書を読むことによって仕事に落とし込むこともまた「サンクコスト」となりうるのではと考えてしまう。

第5章「若者はなぜ3年で辞めるのか?」
城繁幸氏が出された本とどう妙のタイトルとなったのは意図的なのだろうか疑ってしまう。若者とベテランの意見がかみ合わないというところから嫌気がさし、早々と辞めてしまうということを表している。
日本に限らず、様々な労働の場において「経験」という言葉がものをいう。またそれに関しての「記憶」や「慣れ」というのがあり、仕事が円滑に進む、冷静に対処できる。というメリットがある。
ところが思わぬ落とし穴もある。それだけで思考停止され、幅の利いた対策ができなくなる。それが経験年数が長ければ長いほどとらわれてしまう。「ヒューリスティック」という言葉を中心に扱ったところであるが、効率よく意志決定できる反面、前述のようなリスクがある。効果的に使えばいいのだが、感情論からしてなかなかうまくいかないのが世の常なのかもしれない。

第6章「残業と先延ばしの経済学」
最近の職場では「ノー残業デー」が設けられているところや「残業をさせない」ことを奨励する企業が増加している。しかし悲しきかな日本人は、光いった制度になれてないのか、あわないのか、守れていないところが結構ある。
そういえば「国力会議」という本で前首相も麻生太郎氏が「古事記」を持ち出して日本人は働くことが「善」となる民族だからかもしれない。
経済学や心理学で一概に「先延ばし」についていえるのかというと難しいが、様々な角度から日本人が残業したがる傾向にある考察は行う必要があると思った。

第7章「「見た目が9割」で思考停止しないために」
これは人の第一印象に限らず様々なものやことに「第一印象」がつきまとうと主張しているところである。第一印象に惑わされず「疑う心をもて」と諭すところである。

感情や単純な数字、グラフによって振り回されている人もおり、私もその一人なのかもしれない。そのときこそ最後に書いてあるように「疑う」のも大切である。「懐疑哲学」で大成したルネ・デカルトの言葉、
「我思う、故に我あり」
という言葉を胸に据えながら生きていこう、そう思った一冊であった。