悩めるアメリカ

バラク・オバマ大統領が核廃絶発言によりノーベル平和賞を受賞しても、支持率は一向に上がらず、核廃絶以外にも経済政策やイラク戦争処理などで課題山積となっている現在のアメリカ。「超大国」と言われているアメリカが岐路に立たされている今、どういった状況なのか。本書はニューヨーク駐在経験のある日本経済新聞編集委員が現地へ赴きありのままのアメリカを見てきた記録である。

第一章「不安・分裂の真相」
過去に起こった戦争のなかで泥沼化したものがあるが、最たるところでは「ベトナム戦争」と「イラク戦争」が挙げられる。もっとも大国であるアメリカが失態を犯すということを考えるとこのようなことが多い。「正義」と銘打って出た戦争がその裏で「民間戦争会社」や「宗教右派」といった所がバックに回っている。
不安はそれだけではなく、移民も積極的に受けているが、それによって割を喰らっている民もいる。そう、ヒスパニックである。元々大陸にすんでいたヒスパニックが開拓とともにその地を追われ、環境の悪い土地に住むことになり、満足に働くことも食べることもままならなくなってしまったという。

第二章「安全か自由か」
アメリカは「自由の国」というイメージが根強い。しかし「9.11」以降その概念が崩れ始めた。最初にも述べた「イラク戦争」により、報道や言論の自由が束縛されるようになり、ブッシュ批判がほとんど消され、まさに「非常時」のような体制を長きにわたって敷いてしまった。
さらにイスラム教徒への偏見も顕著になった。特に空港での入国チェックではテロリストと間違え、ひどい扱いを受けるということも本書では生々しく書かれている。

第三章「グローバル化の明暗」
アメリカによる「グローバル化」は貿易に多大な影響を与えた反面、日本、現在では中国に対しての「双子の赤字」を招いている。この貿易に関して日本に対し「スーパー301条」を適用させるという脅しも行ったこともあり、最近では中国に対する批判も相次いでいるが、日本と同じ圧力で通用するような国ではないため、別の策を講じる、もしくは揺さぶり方に注目である。
この自由化を行ったこと、経済的に自由化を行った結果、激しい格差となった。現在のオバマ政権ではそれに関する経済政策を行っているが、効果が表れるのはまだ時間がかかる、もしくは現れないという声もある。

第四章「揺れる社会」
ここでは世論と宗教といったイデオロギーについて書かれている。第一章でも書いたがアメリカには「宗教右派」や「社会的保守派」と言うのが存在しており、おもに南部に多い。それらは先のブッシュ政権、および共和党を支持しており、他宗教への排斥心が強いところでもある。
保守とリベラルの対立(「レッド&ブルー」の対立)による移民や戦争、外交、経済に至るまで様々な論争が繰り広げられながらも、平行線をたどったままと言える。

第五章「消えぬ草の根の活力」
こうした中で草の根的な活動をしている人たちもいる。起業家もさることながらアメリカ州知事や市長も同じくして不安に駆られる地方を救おうと東奔西走をしている。

第六章「どこへ向かうのか」
これまで超大国のアメリカとして「パクス・アメリカーナ(元は「パクス・ロマーナ」からきており、アメリカ中心の平和を指している)」とも呼ばれる時代であったと言える。しかしイラク戦争による失態、昨年のリーマン・ブラザーズ破綻による経済の弱体化など数々の要因が重なり、もはや中国にとって代わられてしまう事態に陥りつつある。「超大国のアメリカ」の威信を取り戻すのか、中国にとって代わられるのか、あるいはどこへ向かうのか、まだ混沌とした状況は続いている。

ノーベル平和賞をとったオバマだが、まだ前途多難の様相を見せている。国際協調を銘打っているが、これからどのような状況になるのか、何度も繰り返すようだが、定かではない。