経営者80人が選ぶ「わが1冊」

「努力だけが全てが報われるとは限らない。しかし、成功したものは皆すべからく努力をしている」

漫画「はじめの一歩」から出た名言である。これは読書にも言えるのではないだろうか。

「読書だけでは成功に導けられるとは限らない。しかし、成功した人は読書によってヒントを得ている」

本書は経営者80人がとっておきの1冊を選ぶという1冊であるが、苦難を乗り越えながら、読書によって得たもの、そして自分の糧となった「座右の書」を紹介している。それらが私たちのためになるが、私たちも座右の書になるとは限らない。しかし80人の経営者がこの本に対する思いと自分自身のエピソードを交えながら本を評しているので、思い入れがひしひしと伝わる。

1.「「経営」とは何か」
組織を動かす、社員を奮い立たせる、経営に見通しを突かせる、新たな発見により会社を盛り上げる。経営を「学ぶ」と「行う」とでは同じ場合もあれば、まったく違う場合もある。「経営学」と実践的な「経営」の違いがそこにはある。
とはいえ、経営学や経営論の本から今行っている「経営」にヒントを与えるようなものも少なからずある。ここではどちらかと言うと「理論」的な経営本を紹介している。とはいえどれも「理論」にこだわらず、実践的なものも入っているため「どちらかと言うと」を強調するのが適当と言える。

2.「経営者が選ぶ経営の本」
ドイツの宰相ビスマルクは「賢者は歴史(他者の経験も含む)に学び、愚者は(自らの)経験に学ぶ」と言う名言を残している。
本章では、企業を変えた他の経営者の本を紹介している。他者の経験や哲学を学ぶことによって自分の経営の考えの潤滑油として役立てているのが良くわかる。

3.「本物の視野を育てる「教養」の本」
経営者であれども経営本だけがすべてではない。文学や経済学、哲学、サイエンスに至るまで様々な本を紹介しているのが本章である。古典のみならず、知らない本・興味深い本もありなかなか面白いところであった。

4.「こころとは何か、「人間」とは何か」
人間論と言うべきだろうか、人間模様と言うべきだろうか迷うのだがここでは「人間模様」といった方が正しいように思える。
この「人間模様」はどういった本を表すのか。
「小説」である。
小説の中には様々なストーリーや人間模様が描かれており、リアリティにはピンキリがあるものの存在する。その中でビジネスや経営においてどのようなヒントをもたらしてくれるのかは未知数としか言えない。しかし、小説の中にもヒントは隠されているのには間違いない。

5.「経営者が愛した「司馬遼太郎」作品」
経営者が最も愛した作家の一人に「司馬遼太郎」が挙げられている。「坂の上の雲」「竜馬が行く」などの歴史小説、「街道をゆく」といった文明論評まで数多く紹介されている。
私自身、司馬遼太郎作品は読むことはあるが、書評に挙げることはない。誰もが読んでいるばかりではなく、歴史的な考察などでくどいものとなってしまうからである。とはいえ私が司馬遼太郎作品の中で最も心を打たれたものを紹介する。
晩年に書かれた随筆「二十一世紀に生きる君たちへ」である。
激動の時代に生きた司馬氏がこれからの時代を生きる子供たちのために何を教えたかったのかというのを伝えたかっただけではなく、司馬氏にしか醸し出すことのできない「温かさ」「熱意」が表れている。大学の時に読んだのだが、今も読み返したくなる随筆である。

本は人生の中で、ビジネスの中で、楽しみの中で得ることのできる道具であり、パートナーの一つである。読書に学び、助けられ、叱られ、様々な所において本は大きな糧となることを再認識できる一冊である。