デッドライン仕事術

「残業ゼロの仕事術」「残業ゼロの人生術」で有名な元トリンプ社長の吉越浩一郎氏の仕事・人生術としてはじめて出された一冊である。

本書に限らず吉越氏の本は「スピード」や「即」という言葉に重きを置いている印象が強い。日々進化を遂げている会社であるだけに「スピード」はなくてはならない。それが社長などの上級職であればあるほどなおさらひつようとされる。本書はトリンプ時代に実行した仕事術を披露しながらもスピードの重要性を説いた一冊である。

第1章「仕事のスピードを3倍にする――まず、残業を止めてみる」
かつて日本の平均労働時間は世界で最も高い水準にあった。その中で日本独特の死の病である「過労死」が使われはじめ国際的にも「KARO-SHI」と認識されるほどである。年々労働状況の改善を国・企業単位で取り組みだし、平均労働時間も年が経つにつれ低下していき、アメリカとほぼ変わらなくなった。ところが「過労死」など労働状況はいっこうに改善されていない。それはなぜかというと、残業が多くなったからにある。「労政時報」調査記事によると年度別に時間外労働、つまり残業がどれだけ増減したかの図があるのだが、景気が回復するにつれ増加しているのがわかる。但し、付け加えなくてはいけないのが、当データは2004年度の物を参考にしているので、現在はどのように推移しているのかは不明である。
残業が蔓延る認識の一つとして「時間をかけないと、仕事の質は落ちる」というのが存在する。著者にそれは大嘘であり、即断即決の方が、質が高まるという。孫子の教えに「巧遅は拙速に如かず」というのがある。詳しく言うと孫子の作戦編にあり、戦が長引けば塀に疲弊が起こったり、財政が破たんしてしまう。多少の問題があろうとも素早く動けば、国に利益を生じることができる。完璧な作戦を立てようと長期化して、それが成功したというのは見たことがない、と孫子は言っている。

第2章「即断即決――どうすれば決断力がつくのか」
日本のサッカー界は「決定力がない」といわれたことがある(今も言われているかもしれないが)。これは日本の社会人において「決断力がない」人が多いというのと、同じことが言えるのではないかと思う。
ではその「決断力」を得るためにはどうしたらいいのか。それは「仕事のスピード」に起因しているという。そして「失敗」というネガティブなことにかられて即断できないと言う人も著者は「死にはしない」と切り捨てている。ただし、医療現場や航空現場など人の命と密接である場は話は別である。わずかな判断ミスで人命を失いかねないのである。それだけは付け加えておいておく。

第3章「キャリアアップできる人間の思考法――仕事はゲーム、技を盗め」
本来仕事は「楽しむべきもの」なのか「苦しんでやるべきもの」なのか、キャリアアップできるか否かの分かれ目となる。
そして仕事における技術を得るためにはどうしたらいいのかについても書かれているが、本章のタイトルの通り「盗む」ことである。これは日本独特の技術向上法といえ大工や板前と言った職人では手取り足取り教えてくれるのではなく、下働きをしながら他人の技をみよう見まねで覚えることにある。その現場には行った最初は「猿真似」ていどにしかならなかったものが、やがてやっていくうちに自分自身後肉となる。

第4章「「会議」と「デッドライン」で部下を動かす――簡単で効果抜群なマネジメント手法」
「会議」というだけでも様々な種類のものがある。ブレーンストーミングなどの「アイデア会議」、「進捗会議」「意思決定会議」など多岐にわたる。会議をやるのはいいが、ワンマンになったり、つるし上げの場になったり、口喧嘩の場になり、ダラダラと時間を浪費するようでは結局「無駄」に終わってしまう。
そこでこの会議にも「デッドライン」を設けて「決定」をするというのである。終わり時間を決めておけばそれまでに意思決定をするという覚悟を持つことができ、議論もスムーズに進むことができる。

当ブログでも「スピード」や「音速」といったことを前面に打ち出している。しかし私自身スピード第一主義ではなく、ただ単に好きなF1と書評をなぞらえて名付けたまでである。更新頻度の多さと即書評からかその名前が定着してしまった。
だが本書に出会ってスピードがいかに重要な要素なのかというのがよく理解できたとともに、「残業ゼロ」ではないのだが時間密度とスピードを速めていくことを再認識した一冊であった。