高橋敏夫書評集 「いま」と「ここ」が現出する

高橋敏夫氏は文芸のみならず、演劇やサブカルチャーに至るまで評論を行っている。現在は早稲田大学で教鞭をとっているがメディアを通じて幅広い分野の批評を行っていることでも有名である。本書は現代文学を始め、サブカルチャーや小説に至るまでの書評を集めた一冊である。

Ⅰ.「現代文学・現代思想」
まずは現代文学や思想に関するところであるが、本書の半分を占めている。さらに言うとこの章を年代別の書評と、その中の気づきと3つに分けている。本書ではこのような分け方をしている。
1.2001年〜2009年
2.2001年〜2008年から上下半期別に収穫のあった本を4冊前後紹介
3.1991年〜2000年
一見すると順序が最近から過去にさかのぼっている印象があるが、それ以上に気になるのが2.である。なぜそれがあるのか私にもわからず、著書にもその意図は書かれていなかったが、おそらく、1.で書ききれなかったところで自らの知的好奇心をくすぐられ、収穫となったものを挙げている。4冊を同時に紹介しているため、感想は1.ほど厚く書かれておらず、むしろ率直な感想を数行にしてまとめている(ちなみに1.や3.はより掘り下げたものを書いているため、作品に差はあるもののだいたい原稿用紙10〜15枚程度のようである)。
1.や3.は文学作品を作家の傾向、さらには作品における時代背景、そして文章のレトリックを分かりやすく・・・ではなく、むしろレトリックを高橋氏が醸す表現で批評を行っている。あと印象的だったのが、ベストセラー作品はあまりなく(2〜3冊ほどだった)、「高橋氏がもっとも印象に残った作品」という観点で本を選んでいる。

Ⅱ.「サブカルチャー・演劇」
サブカルチャーの書評と言うよりも、サブカルチャー分野における作品の書評と映画評をまとめたものである。
ここでの傾向は非常に分かりやすく「戦争」というのが中心に置かれているような気がした。
それを機軸にして「ゴジラ」作品や、「男たちの大和」などの作品を挙げている。

Ⅲ.「現代小説・歴史小説」
ここは現代小説よりも歴史小説が中心と言える。ただし「歴史小説」と一緒くたにしても、江戸時代から昭和初期のことに至るまで幅広い。

高橋氏の書評を見ると、本の中身とともに裾のトピックも織り交ぜられていて、非常に興味深く書かれていた。書評を行う時でも私は様々なニュースや他の本を参考にしながら本の中身について迫っていくという感じのものを書きたいために、自然と文字数も多くなる。書評は形式も文体も、文章量についても基準は決まっておらず、書評家の裁量によってまちまちである。書評はその人の読む人間性が如実にでてくる。私はそう思う。