世界危機をチャンスに変えた幕末維新の知恵

幕末はまさに「激動」とも呼ばれていた時代とも言え、既存の概念、幕府などが崩壊されていく中で志士たちの活躍が目立った。欧米列強がアジア大陸へと侵攻していく中で日本はどうあるべきかを常に問われ続けた時代と言える。

一昨年に起こった「リーマン・ショック」を発端に元来あった資本主義の概念が崩壊され、「Free」などの新たな概念が想像していくのにもにている。その中で日本でも、昨年の8月に行われた衆議院総選挙によって、政権が民主党に交代したのも一つの「変化」と言える。

ある既存のものが崩壊、もしくは新たな技術が誕生したことにより、大きな変化を生じていく。本書は世界危機と言われている未曾有の混乱をいかにして乗り越えられていけばいいのかについて、幕末の混乱をいかにして解決をしていったのかについてヒントを与えた一冊と言える。

序章「南北戦争がなければ明治維新はなかった」
アメリカで「南北戦争」が起こったのは1861〜1865年の時である。ちょうどそのとき日本では幕末であった。この南北戦争と明治維新は関係がないように思えるのだが、南北戦争後のアメリカの情勢から日本と密接な関係が始まったといえる。というのは南北戦争終結後、南部を中心に荒廃してしまい、飢餓に悩まされた。そこで薩摩藩はアメリカ南部でよく取れる綿花を大量に買い入れイギリスなど欧州に高値で売り、資金を調達していった。それが倒幕の原動力となり、大政奉還に至ったという。
江戸末期に外国との縁が深かったと言えるのは薩摩藩だけであり、幕藩と外国とで戦争を行ったのも薩摩藩だけである(薩英戦争)。

第一章「島津斉彬の工業化と対外貿易政策」
薩摩藩といえば西郷隆盛や島津久光を思い浮かべる方も多いことであるが、もう一人対外貿易政策の先頭に立った人がいる。薩摩藩藩主である島津斉彬である。1842年に起こった阿片戦争を聞きつけ、対外貿易を中心とした工業境を目指していき、さらにジョン万次郎(中浜万次郎)から聞いたことで思いを深め、粛々と準備を進めていった。その後篤姫を送り込んだり、蝦夷地の開拓を進言したりなど逸話を残している。
斉彬の話が中心であったのだが、本章をよんで思ったのが、貿易と軍備と分野は違うが、吉田松陰の師匠である佐久間象山が海防の重要性を説いていったのもペリーが浦賀沖にやってきた時であることを考えると、倒幕とともに海外にも目を向けていったのかもしれない。

第二章「小松帯刀が坂本龍馬に託した世界進出」
薩摩藩でもう一つ有名な人物が存在した。小松帯刀である。帯刀は大河ドラマ「篤姫」が放送されるまで知っていた人は少ない(「龍馬伝」の岩崎弥太郎も同じであるが)。斉彬の遺志により対外貿易と工業化の推進をした。そんな中坂本龍馬が「池田屋事件」で志士に襲われ、師匠である勝海舟が失脚し、行き場を失ってしまった。龍馬らは帯刀と西郷隆盛とともに薩摩に向かった。そこで亀山杜中や海援隊が誕生したきっかけとも言える。著者の本の中に「龍馬を越えた男 小松帯刀」というのがあるが、本章ではそれを簡略した形で表していると考えられる。

第三章「大久保利通と岩崎弥太郎による海運興業」
今年話題となっている大河ドラマ「龍馬伝」というのがある。その中で岩崎弥太郎が取り上げられており、「(身なりが)汚すぎる」ということで話題となったのは有名な話である
龍馬と弥太郎の関係は海援隊にあり、弥太郎が経理を行った。龍馬の日記にも弥太郎は何度も登場しており、金庫番としての役割を担った。そのなかで経済の重要性を見抜き、明治維新の後に海運事業などを手がけ、現在の三菱グループの礎を作った人物となった。

第四章「松方正義と前田正名の工農対立」
松方正義は新政府下で資金繰りの役割を担った人物であり、薩摩藩にいたことから工業化を推進していった人物の一人でもあった。しかしそれに待ったをかけたのが前田正名で、正名はフランスで農業の重要性を学び、農業と工業を並立しながら、伝統工業を諸外国に売って国を潤そうと考えていた(興業意見)。二人は「宿命のライバル」といわれるほど対立していったのだが、国益を考えていた点では一緒であった。大久保利通は両者の考えを見抜いてあえて抜擢をしたのだろう。しかし西郷と大久保と同じように表舞台では対立しながらも私的には対立はなく、断絶するわけではなかったという。

第五章「五代友厚から渋沢栄一へ――日本実業界の飛躍」
日本の実業界、経済界を作った人物として二人が挙げられている。東の渋沢栄一、西の五代友厚である。五代は幕末に薩英戦争でイギリスに捕らえられ、釈放後もイギリスで貿易に従事しただけではなく、ベルギーやフランスに赴いた事でも知られている。グローバル化や資本主義を先立って行った。渋沢はご存じの通りであるが、日本実業界を大きく発展させた祖として有名である。

現在も経済的に世界危機といわれて久しいが、幕末も政治的に、経済的に混沌の時代であった。もしかしたら日本が植民地化するのではないかといわれるほどである。その中で政治、経済、国防を含めて薩摩藩を中心にどのような改革を行ったのかについて紹介されているが、現在の日本においてなにかしらのヒントがちりばめられているように思える。